クトゥルフ神話TRPG
舞台:現代(任意の国)、クローズド
時間:ボイセ1時間、テキセ3~4時間
難易度・ロスト率:低い
推奨人数:1人
推奨技能:なし
(使い道のあるかもしれない技能:オカルト、天文学)
※旅するだけのシナリオです
ある日、古本屋(もしくは図書館)を訪れた探索者は、偶然一冊の本を手にした。
――気づけば、目の前には見たことのない景色が広がっていた。
本作は、「Chaosium Inc.」「株式会社アークライト」「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
©Chaosium Inc./アークライト/KADOKAWA
本作を遊ぶのにクトゥルフ神話TRPGの基本ルールブックが必要です。本文中の「ルルブ」「ルールブック」表記は基本ルールブックを指しています。
この先はKPする方のみ読み進めてください。
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ある絵本作家の父親が、体の弱い娘を楽しませたいがために、絵本を作ろうとした。
娘は外に出かけられず、いつも窓から空を眺めていた。それが原因か、神話や星座をとても好きになった。
だから父親は、主人公に神話のような体験をさせる、空を旅する絵本を作った。
より楽しんでもらえるように、父親は研究を重ねた。
資料を色々探しているうちに、偶然「ヨグ=ソトース」という神様に行き着いた。
時間や空間を超越するその神の知識に魅入られ、父親は研究し、その知識を作品に取り入ることを試みた。結果、想像以上のものが出来上がってしまった。
作家が書くつもりのないものも、いつの間にか絵本の中に。
娘が体験したら喜ぶだろうという内容を、実際体験できるように。
そしてある日、そんな絵本を、探索者は偶然手に取った。
このシナリオの目的は探索者に空の旅を楽しんでもらうことであり、〈オカルト〉、〈天文学〉などのロールで得られる情報はあくまでおまけである。取り逃しても進行に影響がないので、KPが望むならPLに事前にそう伝えておくのもかまいません。
また、話の展開はだいぶNPC主導のため、ロール関係なしに、必要なことをNPCが教えてくれる場面が多い。PLによっては自由度が低いと感じることもあると思われます。サクッと遊べるシナリオですが、そういう反面もあると、必要であれば事前にお知らせすると良いでしょう。
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探索者は古本屋、もしくは図書館に来ていた。目的のものを見つけて、いざ帰ろうとするとき、通りかかった棚でなにかの気配を感じる。なぜか、確認したくて仕方ない探索者は無意識にその場所へ向かう。
気配をたどっていくとそこには一冊の本があり、青い背表紙には白い文字で「Out of the blue」と書かれてある。取り出すと、表紙は青色のグラデーションで、まるで空の色が朝から夜まで変化していくようだ。そして散りばめられた白い模様は雲を連想させる。背表紙と同じくタイトルの「Out of the blue」もプリントされている。
〈英語〉で、タイトルのblueは空を指していて、青空に突然稲妻が走るという言葉が略され、転じて「突然に、予期できない」という意味になったのを思い出せる。
本を手に取ると、探索者の視界は突如白一色に染まりあがる。
何事かと数回瞬きすれば、視界は徐々に明瞭になっていく。
古本屋(図書館)にいたはずが、目の前の景色が完全に違うものになっている。
――― × ――― × ――― × ―――
探索者は崖の上に立っている。目の前に広がる蒼い海はどこまでも続いているようで、対岸が見えない。空高く昇る太陽の光を反射して、水面はキラキラと光っている。涼しい潮風が太陽の暑さを緩和し、穏やかな波音が耳に届く。
突然知らない場所に立っていることに驚いてSANチェック、0/1D2。
○持ち物は全部所持して良い。
探索者はバサバサっという音を聞こえる。ここで〈アイデア〉を振らせる。成功で、その音は背後から聞こえるもので、同時に背中に違和感を感じる。
振り返ると、なんと背中に鳥のような白い翼が生えた。そして見た瞬間それは反応して広がった。探索者は、自分の意思で翼を動かせることに気づく。体の変化に驚いてSANチェック、1/1D3。
後ろを向くときに景色にも気づくだろう。海の反対側、その方向へ行くと崖から降りられることに気づく。その先は森だ。
○もし探索者が森に入ったのであれば、その中でさまよい続けて、いつのまにか崖に続く道まで戻ってしまう。ループしているみたいで恐怖を感じた探索者はSANチェック、0/1。
翼に気づいた後、「やあ、ようこそ。君も空を旅したいのかい?」と急に声を掛けられ、先ほどまで誰もいなかったはずが、探索者の右隣に突然一人の男が現れた。年は30代後半に見えて、短い茶髪で、メガネをかけている。そして魔法使いのようなローブを着ていて、よく見れば探索者と同じように翼も生えている。彼は人のよさそうな微笑みを浮かべながら探索者を見る。
もし〈心理学〉をするなら、成功で悪意がないとわかる。
※KP情報:絵本作家が自身をモデルにした「案内人」。娘を案内したいがために「作られた」ガイドなので、害意がない。作者の分身なのである程度この世界について知っているが、万能というわけでもない。なるべくPCを正しい道へ誘導するのが役目なので、完全に味方NPCである。
どういうことかと聞くと、彼は空を旅する人をサポートするのが役目で、海を渡るのならガイドを務めるという。名前を聞くと「ここではガイドと呼んでください」と答える。
なお、ここにとどまっても特にできることがないと言って、旅を薦めてくる。
ガイドにほかのことについて聞くと、探索者をいい方向へ導くようにしてくれる。また、彼は親のように探索者に接するが、彼から得られる情報はクトゥルフ神話関連のものが一切ありません。
例:
→ここはどこ:「空の旅の開始地点だよ」
→帰りたい:「旅が終われば、お父さんやお母さんのもとへと帰れるよ」
→どうして自分に翼が生えたのか:「さあ……旅人は皆翼で飛ぶからかな?」
→旅って具体的になにをするか:「空を飛んで景色を楽しむのだよ」
→後ろの森について:「入ると迷ってしまうからおすすめはしないな」
○彼の言葉に従わなくても、彼はずっとこの崖で探索者を待ち続ける。
○ガイドを攻撃すれば、彼は一瞬にして姿を消し、探索者の背後にまた現れる。まるでテレポートのように。SANチェック、0/1。
旅に出ると言えば、ガイドは笑顔のまま探索者を指導する。
「まず翼を広げて、空中に浮くことをイメージしてみよう、そして浮いたまま上下左右に少しずつ移動することをイメージしてみようか」
言われた通りにすれば、自分の意思で飛べることに気づく。
一通り練習して、ガイドは「出発しようか。ついてきてください」と言って海へ飛び出す。そのあとは探索者がついてこれるように速度を合わせて一緒に飛ぶ。
探索者は風に乗って飛んでいく。意のままに翼を羽ばたかせ、空を堪能できるだろう。
※※※
※KP情報:ここからはおまけ部分です。PLに自由に動ける時間を与えたい場合は採用し、時間がない場合はイベントの数を減らすか、全部省略しても構わない。この部分はシナリオの本筋とまったく関係ありません。
崖から飛び出して、少し進んだところ、前方に飛んでいる鳥が見えて、海を見下ろすと、左のほうに大きな渦潮が、右のほうからきれいな歌声が聞こえる。
PLが望めば近づくことが可能。その際後述のイベントが発生する。
イベントが二つ発生したら、自動的に【消えていく翼】に移行する。
イベントが一つ発生したあと、もしくは発生しなくても、PLがどれにも近づきたくないと宣言したのなら、同じく【消えていく翼】へ移行する。
○イベント:飛んでいる鳥に近づく
※もしガイドに鳥について聞くなら、「あれは女神の使いだね。神の力を与えてくれることもあるらしいよ」と答える。力について詳しく聞けば「そんなに悪いものでもない」と言う。
近づくと、それがフクロウだとがわかる。探索者が近くまで来ると、フクロウはくちばしにくわえている植物の枝を渡す。探索者が枝に触れた途端、不思議な力が湧いてくる。それを見届けたフクロウは去っていく。
探索者はこのセッションの間、すべてのロールに+10の補正がつく。(KPが許可すればSANチェックなども含む)
〈生物学〉〈博物学〉〈知識〉のどれかで、植物はオリーブだとわかる。
オリーブだとわかった上で〈オカルト〉に成功すると、フクロウもオリーブも、ギリシア神話の知恵の女神「アテナ」の象徴であることを思い出す。
○イベント:渦潮に近づく
※もしガイドに渦潮について聞くなら、「近づきすぎると危ないかもね」と答える。
近づくと、空を飛んでいるにもかかわらず、渦潮に引っ張られていく。まるで渦潮自体が引力を発しているように、離れようとしても上手く行かず、体力だけが消耗していく。SANとHPが1ずつ減少する。
その後、探索者の状況に気づいたガイドが、探索者の肩を掴んで一緒に脱出することで事なきを得る。
※KP情報:元ネタは「カリュブディス」、食事するのに海水ごと周りのものを吸い込んでは吐き出す、海に住んでいる怪物。KPが望むなら、登場させることも可能で、そのとき〈オカルト〉でカリュブディスの情報を与えることも可能。
○イベント:歌声に近づく
※もしガイドに歌声について聞くなら、「海に住む一族の歌声は綺麗だけど、それを嫌う人もいるみたいだね」と答える。
女性の優美な歌声が聞こえたはずが、近づくに連れ段々と別のものへと変化する。
「いあ いあ んぐああ んんがい・がい!
いあ いあ んがい ん・やあ ん・やあ しょごぐ ふたぐん!
いあ いあ い・はあ い・にやあい・にやあ
んがあ んんがい わふる ふたぐんよぐ・そとおす!よぐ・そとおす!
いあ!いあ!よぐ・そとおす!おさだごわあ! 」
恐ろしい呪文を聞いた探索者はSANチェック、1/1D3。
※KP情報:ヨグ=ソトースを匂わせるための召喚呪文だが、実際に召喚を行っているわけではない。また、歌声は「セイレーン」のもので、PLが望むならKPは〈オカルト〉成功した時に情報を与えてもいい。
おまけ部分終わり。
※※※
空を自由に飛び回ってしばらく経つと、探索者はまた違和感を覚える。翼が動かし辛くなってきた気がして、体が重力によって下へと引っ張られていく感覚が最初よりも強い。
○〈アイデア〉もしくは〈目星の半分〉で、翼が小さくなったのに気づく。しかも、翼を構成している何かが溶けていくのをなんとなく感じる。
失敗しても、ガイドに聞けば背中を確認してもらうことができる。
○上記ロールを成功した場合、〈オカルト〉〈知識の半分〉ロールができる。成功で、ギリシア神話にあるダイダロスとイカロス親子の話を思い出す。二人は脱走のために、蝋で鳥の羽を固めて翼を作り、空を飛んで逃げようとした。が、太陽に近づきすぎると蝋が溶けてしまう父の忠告を無視して、イカロスは自分が太陽まで飛べると過信し、結局翼の蝋が溶けて、彼は海に落ちて溺死した。
翼のことをガイドに話すなら、彼は探索者の背後に回り込んで状況を確認する。そして少し考えると、「案がある」と言って右手の親指と人差し指を口までもっていって、口笛を吹く。
その音に答えるように、馬の嘶きに似た声があたりに響き渡る。同時に何かが前方から向かってくるのに気づく。近づくにつれはっきりと見えてくる、美しい毛並を風になびかせているそれは馬でありながら、背中に双翼を持ち、空を駆ける姿は勇ましい。「天馬」ペガサスを目撃した探索者はSANチェック、0/1D3。
※サプリ "Cthulhu Invictus" (Chaosium, 2009) P125より抜粋(誤訳の可能性あり)
ペガサス
STR 29 CON 21 SIZ 30 INT 18 POW 25
DEX 16 HP 23 ダメージボーナス:+3D6
武器:噛み付く(45%) ダメージ 1D10
キック(30%) ダメージ 1D8+db
突進(25%) ダメージ2D8+db
装甲:6点
目撃によるSANチェック:0/1D3
ペガサスは近寄ると探索者を背に乗せて、上空へ登る。ガイドも後ろからついてくる。段々と周りが暑くなっていって、探索者は光の眩しさに目が開けなくなるだろう。
○逃げるや暴れる場合、ペガサスに振り落とされて海に落ちる。〈水泳〉か〈幸運〉を失敗した場合、1D3のダメージを負う。
○海に落ちた場合、ガイドは探索者の近くまで来て、「旅を続けたくないのかい?」と聞く。続けたいと答えた場合、ペガサスがもう一度乗せてくれるが、続けたくないと言うのなら「仕方ない……ならここでお別れだね。お疲れ様でした」とペガサスとともにこの場から去る。 →BAD ENDへ
暑さや光についてガイドに聞くと、太陽に向かっているのだから当たり前だと答える。
○PLが望むなら、〈天文学〉もしくは〈知識の半分〉成功で、太陽の表面温度は5000度を越えるものだとわかる。
しかし、太陽に近づくのは死と同義する、のはロールしなくても普通に分かるだろう。
もし探索者が暴れるなら、先述のペガサスに海に落とされたときの処理を行う。
ガイドに確認するなら、以下のように答える。
「普通なら死ぬだろうね、しかし今回はこれから会うあの方のご加護があるのさ。信じてもらえないかな?」
それでも暑いのは変わらないので、ここで〈CON×5〉のロールをしてもらう。失敗した場合、HPを-1する。
そしてこの暑さに死の恐怖を感じた探索者はSANチェック、1/1D4。
いよいよ目が開けられないぐらい光が空間を満ちた瞬間、暑さも光も突如に消える。正確には、通常通りの、生活できる程度に戻る。探索者は目を開けても大丈夫だとわかるだろう。背中の翼はいつの間にか消えていたと気づく。
すると目の前に古代ギリシャで着られるような服(一枚の白い布を体に巻きついて、ピンでとめてベルトもつけたもの)を着ている青年が、4頭の馬に引かれる黄金の戦車を操縦しているのが見える。頭上にある冠は太陽の光の輪を表すシンボルを連想させる。
ペガサスは青年に近づき、ガイドは彼に話しかける。
「ヘリオス様、私共をヘルメス様の元へ連れて行ってもらえないのでしょうか?」
ヘリオスと呼ばれた青年は、「旅人か。ああ、構わない。ならこの戦車に乗って、暫くは下に見える風景を楽しむといい」と了承する。
ガイドは、ヘルメスなら旅の終わりに探索者に帰り道を教えてくれると言う。
○〈知識〉成功で、ヘリオスとヘルメス両方がギリシア神話の神様の名前だとわかる。
○〈オカルト〉か〈知識の半分〉で、ヘリオスはギリシア神話の太陽神の名前であり、彼の御する太陽の戦車は目の前のものと特徴が一致する。そしてヘルメスは伝令の神であり、旅人の守護神や商売の神でもあり、いろんな役割を担っているギリシア神話の一員だとわかる。
ヘリオスがガイドと探索者を戦車に乗せた後、ペガサスは飛び去って行く。
○ヘリオスを攻撃しようとする、もしくは戦車の中で暴れる場合、戦車から海へ落とされる。処理は先述ペガサスに落とされるものと同じ。
戦車から下の風景を眺めると、海以外にも小さな島や、遠くに陸地も見える。普段とは違う角度から見る、植物の緑に海の青が綺麗で、まさに絶景だ。戦車が進むにつれ、青空がだんだん赤く染まっていく。夕方になったようだ。
風景を楽しんでいる探索者に、ガイドが「空の旅もそろそろ終わるけど、楽しんでもらえたかな?」と聞く。
※KP情報:クリア報酬に関わるので忘れずに聞くこと。もちろん、肯定の返答が帰ってきても、探索者の行動次第では報酬を与えなくてもいい。
そうして10分ほど飛ぶと前方に人影が見えた。もうじき夜だが、視界は良好で周りの景色もはっきり見える。ヘリオスは「ヘルメス」と人影を呼び止める。
戦車が近づくと人影も振り返る。彼は金髪碧眼の見目麗しい青年で、服装はヘリオスに似ているが、冠の代わりにつばの広い帽子を被っており、手には柄に2匹の蛇が巻きついている杖を持ち、小さな翼のような装飾がついている黄金のサンダルを履いている。翼は今でもパタパタと羽ばたいていて、それが彼が空に浮いていられる原因だろうと察する。
※KP情報:サプリ「Cthulhu Invictus」によると、ヘルメスもニャルラトホテプの化身の一つと見なされる。KPが望むならそのようなRPを挟んでも構わない。加えて、このシナリオ内で、ヘルメスに対する〈心理学〉の結果は成否関わらずに常に「わからない」。彼がニャルラトホテプの性質を受け継いでいるからだ。しかし、このヘルメスはあくまで絵本世界の登場人物であり、邪神に匹敵する力は持ち合わせていない。
振り返った青年は探索者たちを見るとと笑顔浮かべて話しかけてくる。
「あれ、見慣れない顔だね?あ、もしかして旅人かな?」
「僕はヘルメス、旅人の守護神だよ。よろしくね!」
帰り道について尋ねたりすると、楽しそうに聞き返してくる。例:
「ヘリオスはそろそろお休みの時間だもんね。君も帰りたくなったのかな?」
「ふ~ん、いいよ!僕は守護神だし、ちょうど暇だし、送ってあげるよ」
送ることが決まったら、ヘルメスは指を鳴らすと、探索者の足元にも彼のものと同じ翼のサンダルが装着される。「これでついてきて!」と言って彼は上空へと向かう。
ここでガイドとヘリオスと別れることになる。別れの挨拶をしてからでもヘルメスを追いつける。ヘリオスに挨拶すると彼は「ちょうど妹と交代する時間だ。ヘルメスがいればちょうどよかった」などと返す(彼は日が沈む時間で休み、月を司る妹のセレネが月の戦車で空を上るため)。ガイドも「ヘルメス様がいれば安心だね、気を付けて行ってらっしゃい」と、手を振って見送ってくれる。
○ヘルメスを攻撃する場合、まだ戦車にいるなら先述ペガサスに海に落とされるときと同じ処理をする。もしサンダルを履いていて飛んでいる場合、ヘルメスはサンダルを取り上げる。探索者はさらに高い場所から海に落とされるため、ダメージを増やすなり(例:1D3+2など)、追加SANチェックをすることもできる。
上へ登っていくと、空は暗くなり、やがて夜になった。キラキラと星の輝きがあたりを照らしている。月は出ていないようだ。
星空を眺めていると、ふと目の前の景色が一瞬歪んで見えた。しかし瞬きをすればその歪みは消え、代わりにいろんな人や動物、見たこともない怪獣のような生物が空のあっちこっちにあらわれた。不可解な現象を目撃した探索者はSANチェック、0/1D2。
この光景を見て、ヘルメスは杖を振るう。すると杖から光が放ち、探索者の目の前に道を作り上げる。道の先には2匹の熊――熊の親子が遊んでいる。
ヘルメスはにっこりと笑いながら、「帰りたいよね?熊の子供のほうへ向かえば、帰れるよ」と言う。続けて、「でも、まっすぐ向かうんだよ?寄り道したら、悪い怪物に食べられちゃうかもね?」と、くすくすと笑って探索者の背中を押す。
〈天文学〉で星空を観察すると、熊の子供の位置はこぐま座と一致することが分かる。さらにこぐま座にある「ポラリス」という星は、現在の北極星であることがわかる。北極星は地球から見てほとんど位置が変わらないため、航路の測定などにおいて非常に重要な星で、道しるべとも言える。
探索者が出発して、もし振り返るのなら、ヘルメスはいつの間にか姿を消した。
道中、美しい女性やたくましい男性が声をかけてきたり、澄んだ音色を奏でる竪琴、巨大なサソリ、半人半獣の姿の者もいて、どれも目を引くものだ。そして、さきほどまで一緒にいたペガサスも夜空を飛び回っている。
※KPが望むなら他の星座関連のものを追加することも可能
道を沿って進むと、「ねえあんた、こっちに来て一緒にワインでも飲まない?とてもおいしいわよ~」と妖艶さの帯びる声が探索者を誘う。
誘いに乗って寄り道するかどうかでエンディングが分岐する。なお、誘いを断ると「つれないわね~」などと言われるが、もう一度断れば完全にあきらめてくれる。
○寄り道する:〈聞き耳〉を振らせて、成功すれば虫の羽音が聞こえる。振り向けば、ピンクがかった色の、甲殻類のような胴体に膜のような翼が生えている生き物が見える。頭のかわりに短い触手に覆われた楕円体が付いているそれは、一般人が見ていて気持ち悪い生き物だった。ミ=ゴを見た探索者はSANチェック、0/1D6。それから、〈クトゥルフ神話〉1%を獲得する。
ここからポラリスへ向かいたいなら、追いかけてくるミ=ゴのDEX14と対抗。成功すれば捕まらずに熊の子供までたどり着けて、後述の「寄り道しない」場合の処理をする。もしDEX対抗に失敗したら、ミ=ゴとの戦闘になる。
→ミ=ゴに負けたら探索者はロスト。現実に戻れない → LOST ENDへ
→勝てば改めてポラリスへ向かうことができる(報酬は少し減る)。以下の「寄り道しない」場合の処理をする。
※ミ=ゴのステータスは基本ルールブックP191~192をご参照ください。
○寄り道しない:クマのこどもへ簡単にたどりつける。近付くと小熊が手を振りながら迎えてくれる。小熊は探索者に向かってしっぽを振って、まるでそれに触れてほしいと訴えているように感じる。
しっぽに触れたそのとき、周りの景色は消えていき、また視界が白く染まっていく。
〈聞き耳〉を振らせて、成功すれば最後に虫の羽音が聞こえる。しかしその主に触れられる前に、探索者は大きな力に引っ張られてこの場所から放り投げだされた。 → HAPPY ENDへ
※KP情報:羽音はミ=ゴのもの。
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クマの子供(ポラリス)までたどり着いたエンド。探索者は旅を完遂する。
旅を終え、次に探索者の意識がはっきりするとき、目の前には見覚えのある景色があった。
どうやら、元いた図書館(もしくは古本屋)に戻されたようだ。手に取った「Out of the blue」という本は持ったままだが、いつの間にか最後のページが開いてあった。
そのページには、「この本を、空に夢見る、我が愛する娘に捧ぐ」と書かれてあった。
○SAN報酬:
シナリオクリア 1D3
旅を楽しんだ(ガイドにそう答えた) 1D3
一度も海に落ちなかった 1D2
帰り道で寄り道しなかった 1D2
○成長チェックとは別に、〈オカルト〉成長ロールなしで1D4の成長
海に落とされて、溺死するエンド。
取り残された探索者は水泳持ちだとしても、やがて力が尽き溺れてしまう。自分の死に直面する探索者はSANチェック、1/1D6。
意識が途切れたと思ったら次の瞬間、元いた場所にて目が覚める。手に取った本はいつの間にか消えていた(翼がまだ溶けていなかったらそれも消えた)。しかし溺死した記憶や感覚が残っていて、不気味に思いながらも探索者は日常へと戻っていくしかないのだろう。
○SAN報酬なし
○成長チェックとは別に、〈オカルト〉成長ロールを一回行なうことができる
帰り道で寄り道をして、ミ=ゴと遭遇し、戦闘に負けたエンド。
「あ〜あ、だから忠告したのにねー」とヘルメスの声がどこからともなく聞こえてくるが、それに答える気力がなく、探索者の視界は暗転する。
○PCロスト
――― × ――― × ――― × ―――
セッション内に背景を解説したい場合、元の場所に戻ってから、図書館なら司書、古本屋なら店主から話を聞くことができる。当然、クトゥルフ神話に関する話は聞けないが、父親が神話や星座好きの娘のために書いた本ということなら聞ける。
更に、有名な作家さんでもないので、大量出版はされておらず、かといって高価で売れるような内容にもなっていないため、こうしてここに残ってると教えてもいいだろう。
探索者以外にも似たような体験をした人がいるかもしれないが、誰も内容を他人に言えないためか、「空の旅」に関しては司書や店主も聞いたことがない。
本シナリオを書くきっかけは、以下の写真やツイートを見てインスピレーションが降りたからです。素敵な写真に感謝!
https://twitter.com/KAGAYA_11949/status/856122805917700097
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※シナリオ制作の裏話などです、読まなくてもシナリオを回せます。
このシナリオは基本的に作者の好きな物を詰め込んだだけのものです。
「ギリシャ神話」「天文学」「星座」「青空と海」「旅」などの要素を取り入れています(ギリシャ神話ではヘルメスとアテナが好きなので彼らにも関わっていただいて)。PCにひと時不思議な体験をさせるために、これらの要素を「絵本」に詰め込んで背景を決めました。
しかし諸々決まったところで、「このシナリオだいぶ自由度が低いのでは…?」と思いました。「絵本」だから当然スタートからエンディングまでの道筋が決まっていて、それによって制限されてしまいます。もはやシナリオではなく、ただの「読み物」になっていないかとかなり悩みました。
その後、少しでもこの問題を解消するために「おまけ部分」を書き足しました。フクロウ、カリュブディス、セイレーンの3択を提示してPCに選ばせることで、探索場所や分岐点、ついでにCoCの要素も少し増やせたつもりです。
とはいえ、主軸の部分はどうしようもない一本道なので、自由度を求めるPLには向いていないのでしょう。自分でも若干回しにくいところがあると思っていますが、せっかく好きな要素をかき集めてできたシナリオなので、こうして公開することにしました。
余談ですが、ガイドさんは最初カー○キャ○ターさ○らのお父さんに似たイメージで書きましたが、リプレイ動画にもなったテストプレイ以降はとう○ぶの石○丸さんみたいな口調でRPすることになってしまいました…。