クトゥルフ神話TRPG
舞台:現代(任意の国)、クローズド
時間:オンラインテキストセッションで3~5時間
難易度・ロスト率:低い
推奨人数:1~2人
※探索メインのシナリオで、戦闘は回避可能
※PC1人ずつ、それぞれにルートを用意しています。キーパリング慣れてない場合はPC1人で、NPCを用意するといいかもしれません
※PC同士(PCとNPC)は恋人、親友、家族などの親しい関係にあることが望ましい
便宜上「ヒーロールート」と「ヒロインルート」と呼ぶ。
もしPCが男女のコンビであれば、男性PCはヒーロールート、女性PCはヒロインルート固定になる。
同じ性別のPCであれば、推奨技能の差があるのでできればPLに選ばせるのがいいだろう。分岐点で1D100を振らせて、数値が高い方(ソロだと〈幸運〉失敗)をヒロインルートにするのも可能。
(準推奨は一応なくてもあまり困らないもの)
推奨技能:目星、オカルト
準推奨技能:芸術〈音楽〉系の技能(楽器など)、聞き耳、回避
推奨技能:目星、図書館、オカルト
準推奨技能:聞き耳、忍び歩き
ある日、共に出かけた探索者たちは、突然とある異変に遭遇した……
(ギリシャ神話の要素を多く取り入れたシナリオです。神話好きな人向けかもしれない)
本作は、「Chaosium Inc.」「株式会社アークライト」「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
©Chaosium Inc./アークライト/KADOKAWA
本作を遊ぶのにクトゥルフ神話TRPGの基本ルールブックが必要です。本文中の「ルルブ」「ルールブック」表記は基本ルールブックを指しています。
この先はKPする方のみ読み進めてください。
――― × ――― × ――― × ―――
ヒプノスが作り出した空間へ探索者たちは迷い込む。それは神話を模した世界で、「ヒロイン」と間違われた探索者(もしくはNPC)はさらわれた。
本物の神話世界ではないから、当然、本来あるはずがないものもそこにはあって……。
この空間から脱出するには二人が協力して試練を乗り越えるしかない。
(元ネタはギリシャ神話の冥府くだりです)
――― × ――― × ――― × ―――
とある休日の昼下がり。天気は良く涼しい風も吹いていて、まさにデート日和。二人はどこかへ出かける、もしくはその帰り。
しかし、今日の予定(もしくは出来事)を話してると、急に地鳴りのような音が聞こえてきて、あたりは地震のように揺れ始める。
周りを確認すると、先までいた他の通行人はどこへ消えたのか、全く見当たらない。
その直後、二人の3メートル先の地面が口を開いたように裂けた。
割れ目の下には暗闇しかない……そう思えたのも一瞬だけだろう。
嘶きとともに深淵から躍り出たのは、全身に漆黒の毛並みをまとう4頭の馬と、彼らに引かれる豪奢な装飾が施された金色の戦車だった
この現実離れした光景を目撃した二人はSANチェック、0/1D3。
もしヒロインを決めてない場合、ここで1D100を振って、出目の大きいほうをヒロインルートに進ませてください(ソロの場合〈幸運〉失敗でヒロインルートへ)
探索者が状況を把握する前に戦車は二人の横を通り過ぎていく――と思いきや、【ヒロイン】はすごい力で引っ張られるのを感じる。
まるで見えない手につかまれたように、あっという間に戦車の上に引き上げられる。
戦車の行く先にまた裂け目が現れ、戦車は速度を落とすことなく、【ヒーロー】には目もくれずに走り去ろうとする
ここからルート分岐へ
――― × ――― × ――― × ―――
【ヒロイン】がさらわれるのは一瞬の出来事なので、止めることはできない。
ここで取れる行動は大まかに2パターンがあると思われる
地面の裂け目は徐々にふさがれていくが、完全に消える前に探索者はぎりぎり中へ入りこむことができる。
飛び込めば、一瞬全ての感覚が消えたように感じた――何も見えないし聞こえない。しかしそれも束の間、探索者はすぐに大きな音とともに、目の前に現れた川に落ちるだろう
○〈幸運〉または〈水泳〉:成功で1ダメージ。失敗で溺れかける。1D3のダメージ
探索者は流れの早い川に飲み込まれたが、やがて岸に打ち上げられる。
地面の裂け目はだんだん小さくなって、やがて消えてなくなる。
「あ~らら、消えてしまったね」という声が背後から聞こえる。振り返るとそこには金髪碧眼の見目麗しい青年が立っている(APPでいうと18ぐらい)
身にまとってる服は古代ギリシャで着られるもの(一枚の白い布を体に巻きついて、ピンでとめてベルトもつけたもの)だが、靴には小さな翼のような装飾がついてる。
彼との会話は可能。探索者の反応に応じて大体以下のようなことを話す。
何もしない:「ふふ、あの方に気に入られたとはね~どうなるんだろうね~」
あの方とは?:「あの方はあの方だよ。……『冥界の王』、といったところかな?」
助けを求める:「ふ~ん、ま、仕事もないし、いいよ。どうなっても知らないけどね」
君は誰?:「僕?……そうだね、ヘルメス、とでも呼んでよ」
攻撃する:「僕にかまってる暇があるなら、先に大事な人をどうにかした方がいいんじゃない?」(彼の回避は自動成功)
○助けを求める、または【ヒロイン】のもとへ連れてほしいと頼む
青年は右手を挙げる。その瞬間、彼の靴についてる翼が大きく広がっていくような気がした。だが視界はすぐに白い羽に覆われていて、何も見えなくなる。
気づけば周りの景色は変わっていた。突然の移転にSANチェック、0/1D2。
どのパターンでもこの時点で同じ場所にたどり着く。
あたりの地面は岩でできている、でこぼこだから自然の産物だろう。空は暗く、暗雲が立ち込めてるようで星も何も見えない。
すぐ近くに川が流れている。川沿いには【船】が一隻、まるで流れに影響されずに岸辺に止まっている。
また、探索者の左側の少し離れたところに白い外観が目立つ【ガゼボ】(西洋風のあずまや)が一つある。距離は歩いて5分程度。
持ち物の中に武器がありそうなものがあれば、それはなくなっていることに気づく。他の物はそのままだ。携帯は使えるが電波がないため、通話やネットは使えない。
船のほうに近づくと、中には老人が一人寝ている。灰色の長いひげをはやし、服は古くボロボロだ。
声をかける、または肩を揺らすなどで老人は目が覚める。のろのろと起き上がると、探索者を鋭い目でにらむ。
話しかけると低くて迫力のある声で返事する。会話例としては:
「ああ?……新入りか?船賃は用意したんだろうな?」
「ふざけてんのか?このステュクス川を渡りたければ1オボロスを持ってこい!」
等々、川を渡るのに必要なものを教えてくれる。
●〈オカルト〉ロール
(先にガゼボにある星座の本を読んだ場合、+20の補正をつく)
成功すれば、ステュクスはギリシア神話において地下、または冥府で流れている川の名で、カローンという渡し守が小舟で死者を彼岸まで運んでくれることを思い出す。
カローンは報酬として1オボロスの銀貨を受け取るが、ヘラクレスに力で負けたり、オルフェウスの竪琴の音色に魅了されて報酬がないまま運んだこともある。
この二人の話は星座とも関係している。
(本を読んだ場合:この二人については星座の本にも書かれている。オルフェウスの竪琴がこと座となり、ヘラクレス自身がヘルクレス座になったと言われている)
●〈芸術(音楽系)〉ロール
成功しても運んでくれない。音楽で魅了する場合、オルフェウスの竪琴が必要。
●老人を攻撃する
1ダメージでも与えれば、あたった場所がボロボロと落ちて、中に何かがうごめいているのが見える。しかし直後に傷口が光ってみるみるうちに塞がれていく。
その不思議な光景を見た探索者はSANチェック、1D3/1D8。
(カローンはヨグ=ソトースの化身の一つと言われている。ヨグ=ソトースの一部のを見たため、正気度の喪失は大きめ)
川を渡るには、オルフェウスの竪琴か、ヘラクレスが必要。
近づくと、中央には丸いテーブルがひとつ。建物に合わせてか色は白く、しかし表面は深い青色をしていて、真ん中に書かれた模樣と周りに点在する銀色が天の川を連想させる。
その上に【本】が一冊、蓋のしてある【ガラス瓶】が一つ、そして【メモ】が一枚ある。
●メモ
内容は以下の通り:
【願いを叶える星】
君には叶えたい願いがある?
願いを叶う星を集めてみたよ。
願い事を夜空に描いてご覧?
優しい神様が力を貸してくれるかもよ
●本
タイトルは「トレミーの48星座」。星座ごとに星図と、関係するギリシア神話について書かれている。全部読むなら1時間かかる。読み終えると、こと座、ヘラクレス座の情報を手に入れられる。
○先に老人のところで〈オカルト〉に成功していれば、時間消費なしでこと座、ヘラクレス座の項目を見つけられる
○〈オカルト〉失敗しても、老人の話を聞いていれば、〈アイデア〉成功で同じく即座に情報を見つけられる
(KPの裁量によっては、この辺の情報はPLのリアル知識を反映させることも可能)
○本の内容:
【こと座】
主に5つの星によって構成されている。その中には「織姫星」こと「ベガ」もある。
元はギリシャ神話で有名な音楽家――オルフェウスの竪琴であり、彼が冥府くだりする際、
竪琴を奏で、渡し守のカローンを魅了し、ステュックス川の向こう側に運んでもらえた。
さらに、その音楽で番犬のケルベロスを眠らせ、ハデスの玉座までたどり着いた。
彼の死後、ゼウスはこの竪琴を拾い星座にしたのが由来である。
【ヘラクレス座】
全天で5番目に大きい星座で、主に14の星から構成されている。
ギリシア神話で十二の功業を成し遂げた英雄ヘラクレスが、正式に神となり星座にもなったのが由来。
功業の一つは地獄の番犬ケルベロスの捕縛であり、彼は力づくでステュックスの渡し守のカローンを脅し、
川に渡ったあと同様に力づくでケルベロスを生け捕りにしたのであった。
●ガラス瓶
淡い光を放っているのに気づく。瓶の中には星の形をしたガラス細工が光っている。一個のサイズは金平糖ぐらいの大きさ。
ガラス細工の数は1D6を振らせて、その出目×10個入ってるとする
ガゼボのテーブルの上に星座を作れば、ガラス細工を並べ終わると星たちは柔らかい光を放ち始める。
そして光の軌跡によって星たちは繋がり、また違う形に変化していく。
より一層強い輝きを放った後、探索者が作った星座の由来であるものが手に入る。
こと座なら、金色に輝く竪琴が宙に浮かび、オルフェウスの竪琴が手に入る。
ヘルクレス座なら、偉大なる戦士の姿が見えて、ヘラクレス本人が出てくる
○実際に回したとき、どれか一つ星座を作ったら、以降何を作っても反応しなくなるが、KPの裁量によっては、新しく作るたびにそのアイテムを入手し、前のものが消えるという処理もありです。
混乱を避けたい場合、PLがメモの裏を調べる(もしくはメモに〈目星〉する)と、「ただし、叶えられる願いは一つだけ」と書いてあることを伝えてください。
以降、作った星座によって分岐する:
●分岐:竪琴を入手
以下の情報を提示する:
【オルフェウスの竪琴】
ギリシャ神話に登場する有名な吟遊詩人、オルフェウスが使った竪琴。
神話によると渡し守のカローンや番犬のケルベロスもその音色に魅了された。
使うには芸術〈音楽〉またはその類似する技能でロール(ピアノ、オペラなどでも可能)。
ただし初回は補正に「DEX×5」がつき、次にDEXの4倍、3倍と、最終的には1倍の補正がずっと加算される。
補正ついた結果100を超えたら、99として扱う。
○これで老人に演奏を聞かせられるようになった。判定に成功すると、船に乗ることを許してくれる。
探索者が竪琴を弾こうと手を弦に置くと、不思議なことに手が自動的に動くように、優美な音楽を奏で始める。
それは今までに聞いたすべての音よりも澄み切って、まるでこの世で存在しない、聴くものを誰もが魅了する音色のように
自分の意思と関係なしに竪琴を弾き続ける探索者はSANチェック、0/1。
(一曲終わったら自由に止められるので他にダメージなどはない)
●分岐:ヘラクレス召喚
ギリシア神話の英雄ヘラクレスが出てきて、怒りながら老人を脅してくれる。
ただしPLがあまりにも傍観を決め込んでいると手をあげてしまう。老人が傷つくと先述の「老人を攻撃」のような展開になる。
ちょっとでも止めようとすれば(「暴力はやめて!」と叫ぶだけでも)、落ち着いてくれる。
老人もヘラクレスにはかなわないと知っているので、最終的にはヘラクレスとともに向こう側へ運んでくれる。
岩で作られた大地が広がっている。ちょっと遠いところに何かの建物が見える。
もし老人に尋ねると、それは「王の宮殿」と答えてくれる。
竪琴を抱えたまま、もしくはヘラクレスを連れて宮殿へ向かうなら、道がでこぼこしていて歩き辛いので、建物にたどり着くまで結構時間がかかる。
しかしそろそろつくか?と思う時に、探索者の前方から何やら唸り声が聞こえてくる
宮殿はもう目の前にある。その前には大きな黒いゲートがあり侵入者を拒むが、それだけではなく、
探索者が聞いた唸り声、その主がゲートの入り口を守るように立っている。
体はまるで犬、しかし探索者より一回りも大きいその体躯は明らかに尋常ではない。
何より、首の上にある三つの頭が、今にも探索者を噛み砕こうと牙を剥いている。
冥界の番犬、ケルベロスを目撃した探索者はSANチェック、1/1D10。
ここで特殊イベントが入る。竪琴を使うか、ヘラクレスが協力してくれるか、もしくは自力で戦うかで分岐する。
●分岐:竪琴を使う
ケルベロスの頭は順番に眠るので、起きてる頭は常に二つ。
【オルフェウスの竪琴】ロールを成功すれば一つの頭を眠らせる。失敗するたびにケルベロスは探索者を攻撃しようとする。合計2回成功まで再チャレンジ可能。
特殊イベントなので戦闘扱いではなく、常に探索者から行動する。探索者が失敗するたび「噛みつく」で攻撃してくる(下記のデータ参照)。
この攻撃に対して探索者は〈回避〉や受け流しができる。
竪琴ロールを2回成功できたら、音楽を聞いてる二つの頭はゆらゆらとリズムに乗って揺れると、ゆっくりとまぶたが落ちていき、やがて寝息を立てて眠りに落ちる。
探索者はこの時点でゲートに近づけて中へ入れる。
●分岐:ヘラクレスに協力してもらう
ヘラクレスにお願いすれば、ケルベロスを押さえてくれる。この部分は特にロールが必要ない。
しかしゲートに近づくなら、DEX×5に成功しなければゲートを抜ける前に1回「噛みつき」攻撃を受ける。
この攻撃に対しても〈回避〉もしくは受け流しが可能だが、そうすれば再び近づくのにDEX×5を振り直さなければならない。
●分岐:ケルベロスと戦闘
探索者が自ら戦闘を仕掛けるのなら、竪琴やヘラクレスは光の粒子になって消え失せる。
その後は通常の戦闘処理になる。ステータスは以下の通り。勝てばゲートを通れる。もしここで死亡したら、シナリオ最後の判定をするまで行動が制限されるとする。(合流までは行動不能)
○三つ首の守護者、ケルベロス
("Cthulhu Invictus" P109より抜粋/Chaosium, 2009)
STR 26 CON 17 DEX 14
SIZ 23 INT 12 POW 16
HP 20 ダメージボーナス +2D6
攻撃:〈噛み付く〉40%、ダメージ1D10
〈かぎづめ〉40%、ダメージ1D6 + DB
装甲:なし、ただし魔力付与されてない武器によるダメージは常に最小値しか受けない
ケルベロス目撃によるSAN喪失:1/1D10(※上記のSANチェックとの重複に注意)
「生きてる」ままゲートに入ると、竪琴は役目が終わったように、光って徐々に粒子と化して、空に昇っては消えていく。(ヘラクレスの場合、城に入るまでケルベロスを押さえてくれるので消えるところは目撃できない)
そして目の前には城――きらびやかな色ではなく、黒や灰色で統一されていて、荘厳な雰囲気を漂う巨大なお城だ。
ゲートから道が伸びて、その先は城の入口につながっている。
(窓パーンすれば守衛が来る。骸骨なのでSANチェック、0/1D6)
扉から入ると広いホールがある。薄暗いがやはりヨーロッパにある城のような装飾で、真正面に階段が一つだけ上の階へと伸びている。その突き当りにまた扉が一つがある。
二階の扉を入ると、部屋には見事なカーペットが敷いてある。装飾は黒と紫色が基調になっており、ところどころ見える金色が主人の地位を表しているのだろう。両側の壁にはいくつか扉がある。冷えた空気と相まって荘厳な雰囲気が漂っている。
しかしそんな事よりも、扉を開けた瞬間目に入るのはやはり部屋の奥、玉座に座っていながら探索者を鋭い視線で見ている人物だろう
冥王ハデスは自主的に探索者に話しかける:
「我はこの地を治める王、ハデスだ。そなた、ここの住人ではないように見えるが、何のために訪れたのだ、来訪者よ」
【ヒロイン】を探してる、などと答えれば、彼は少し待つようにと言って、そしてヒロインは「すぐそこにいる」と答える。
●冥王に攻撃、近づこうとする
なぜか玉座の5m先ぐらいまでしか進めず、まるで見えない壁が進路を阻んでるようだ。冥王に触れることはできない
そのまま【合流】のイベントへ
もし何らかの原因で「死亡」や気絶したならば、その後のイベントは全部飛ばして、(【ヒロインルート】が終わり次第)直接【合流】のイベントまで進む
――― × ――― × ――― × ―――
戦車は【ヒロイン】をさらって深淵へ飛び込む。漆黒に包まれた途端探索者は気を失う。
次に目を覚ました時には見知らぬ部屋の中に。とてもふかふかで天蓋付きのベッドで寝かされている。
持ち物の中に武器になりそうなものがあれば、それはなくなっていることに気づく。他の物はそのままだ。携帯は使えるが電波がないため、通話やネットは使えない。
部屋には小さなシャンデリアや、ティーテーブル、その上にはいかにも高級なティーセットがあり、パッと見て中世ヨーロッパの王宮のように見える。
部屋を見回すと、左側には彫刻のある木製の扉が、右側にはガラス張りの扉がある。ガラスの外は暗くてよく見えないが、部屋の中はシャンデリアの光もあって明るい。
一通り観察したら、コンコンと木製の扉を叩く音が聞こえてくる。
返事をしてもしなくても、男性の声が外から話しかけてくる。
「ああ、お目覚めになったのですねお客様。入ってもよろしいですか?」
と言った丁寧な口調で挨拶が聞こえ、扉は開かれる。
そこに立っているのは、真っ白な人……いや、「人だったもの」、かもしれない。髪も皮膚も肉体も失くして、残されたのは骨組みのみ。しかしその「手」は確実に扉を動かしていて、「足」は探索者へ向かって歩いてくる。
動く骸骨を見た探索者はSANチェック、0/1D6。
骸骨は探索者にお構いなしにカラカラと骨を鳴らしながら近づいてくる。「ずっと寝ていてはお腹も空くでしょう。晩餐の準備はもうできておりますよ」と丁寧な口調と紳士のような振る舞いで扉の方へ案内する。
●部屋を見回す
詳しい探索はあとになるが、この時〈目星〉でティーテーブルの下にある鍵の存在をなんとなく教えてもいい(キランと光った物が落ちてるとか)
●骸骨と会話
質問も世間話も可能。彼は冥王の従者であり、探索者を主人の客と認識しているため非常に丁寧に対応してくれる
○会話例:
ここはどこ?:「ここはご主人様の宮殿です」
私をどうするつもり?:「あなたは招かれた客人、お客様をちゃんと接待しないと我々が怒られます」
●部屋から出ることを拒否する
逃げようとすれば手をつかんで向かい側の部屋に連れていく。痛くならないようにしているが、なぜか振りほどけない。
たどりついた部屋はまた同じような豪華な内装をしている。中央に長いテーブルがあって、上に様々な料理が並んである。
骸骨は椅子に座るようにと勧めてくる。そして探索者に料理を食べてほしいという。
テーブルを見ると、前菜のサラダやトマトスープから、メインディッシュのローストビーフやカルボナーラパスタ、デザートのショートケーキやフルーツのチョコフォンデュまで、全てから美味しそうな匂いが漂ってくる。他にもいろんな料理あって、テーブルを埋め尽くしている。
もし骸骨に聞けば、これはどうやら「シェフ」が人間界の料理を参考にして作ったものらしい。
●料理を調べる
〈目星〉成功で、料理から赤い実のようなものを発見、よく見ればそれがザクロの種だとわかる。
○さらに〈オカルト〉成功で、ザクロの種は冥府の食べ物として有名だとわかる。冥王にさらわれたペルセポネはザクロの種を食べたことによって、冥界に留まなければならなくなった。
○もしここの〈目星〉を失敗したら、料理を食べるときに〈幸運〉成功で避けられる。
●骸骨を説得する
〈説得〉もしくは〈言いくるめ〉成功で、料理を食べなくても納得してくれる。説得などしないかぎり料理を食べなければならないが、一品でも食べてくれたら許してくれる。なので上記の〈目星〉成功の場合、説得しなくても避けると宣言すればザクロの種を避けられる(〈オカルト〉の成否に関わらず)。
もしザクロの種を食べたら、帰れなくなる……なんてことはないけど代わりにPOWを永久的に1減らす。これは精神を冥界に置いていく表現となる。
説得成功もしくは一品以上食べたあと、骸骨は寛いでほしいと言って、探索者を元の部屋に連れ戻す。
最初にいた部屋に戻ると、「外にいますので何かあればお呼びください」と言い残して骸骨は外に出てドアを閉める。部屋の中なら探索者は自由に行動できる。
●ティーテーブル
〈目星〉成功で、テーブルの下に【銀色の鍵】を見つける。
目星失敗しても再挑戦が可能だが、振るたびに時間が経過するとし、4回失敗すれば骸骨が入ってきて、王に謁見する時間になったと言う。その後直接探索者を宮殿の主、ハデスのもとへと連れて行く。そうなったら直接【合流】のイベントまで進む。
●ガラスの扉
鍵がかかってる。外はバルコニーになっているようだ。ただ真っ暗なため景色が見えない。
【銀色の鍵】を使えば扉を開けられる。また、〈鍵開け〉で開けることも可能。
客室のガラス扉から出ると、バルコニーは左側へ伸びて、その突き当りにもう一つ扉が見える。普通の木製の扉で鍵はかかってない。
中は四角い部屋だ。両側に【本棚】があり、入ってきた扉の近くに木彫りの【デスク】と椅子がある。
照明用に灯した蝋燭の光で、奥にもう一つ扉が見える。その扉の近くに全身を映せる大きな鏡がある。
●デスク
デスクは使い込まれているが、保存状態がいい骨董品のように思える。引き出しの中には【ノート】が一冊入っている。内容は以下の通り。
【引き出しのノート】
竪琴を弾きながらやってきた青年が、妻を連れて帰りたいと言った。本来一度冥府に落ちたものを返すわけにはいかないが、その演奏に免じて機会を与えた……が、不安に勝てずその機会を逃してしまうとは、なんと愚かな。せっかく「あれ」がここから離れた日だというのにな。
○ノートに対して〈オカルト〉、または〈知識〉の半分
ギリシア神話で似たような話があると思い出す。オルフェウスの演奏に免じて、冥府の王ハデスは、彼が妻のエウリュディケを地上に連れ戻すことを許したが、条件としてオルフェウスは地上に出るまで振り返ってはいけないとする。しかし不安になったオルフェウスは条件を破り、エウリュディケは冥界に引き戻されてしまった。
しかし、「あれ」に対してはどのような技能を振っても心当たりがない。
●本棚
様々なジャンルの本がある。
左側の本棚の真ん中の段に、木製の【宝箱】が置いてある。鍵は特にかけてないようだ。
○〈図書館〉成功で、本の間に【手紙などが入ってるファイル】が紛れ込んでいることに気づく。
●手紙が入っているファイル
中を見ると以下の手紙を発見する。
【キュクロプスからの手紙】
先日は助けていただいて本当にありがとうございました。いくらお礼をしても足りないとはわかりますが、我々が送れる最大級の謝礼をぜひ受け取ってください。これさえ頭につけていれば、あなた様の姿はほかの人には見えなくなるでしょう。これが少しでもあなた様のお役に立ちますように。
●宝箱
開けると、クッションが敷いていて、【兜】のようなものがその上にある。
●兜
被ったら一瞬、目の前の景色が歪んだように見えるが、すぐ元通りになる。
もし鏡の前まで歩くと、部屋にあるものは映っているのに、探索者の姿は見えない。まるで手紙のとおりだ。
常識を逸した体験をした探索者はSANチェック、0/1。
○もし兜を外すと、兜を持つ探索者の姿は急に現れたように鏡に映し出される。
一通りのイベントを終えると、奥の扉の外から足音だったり叫び声だったり聞こえてくる。「お客様!どこにいらっしゃいますかー?!」などと叫んでいるのが聞こえる。
直後、扉を叩く音とともに「失礼します」という声がする。ガチャリと扉が開くとローブを着ている人が二人、部屋に入って来て、「ここにはいないみたいですね」とか言いながら室内を見回す。
探索者がこの隙に扉から出ていくのなら、ロールなしで成功できる。
書斎の扉から出るとそこには廊下があって、両側には扉がいくつもある。
ローブを着た人や骸骨の従者がたくさんいて、扉を一つずつ開けて中を確認している。ただし書斎の扉から右側、廊下の突き当りに一つだけ他よりも大きい両開きの扉があって、そこから出入りする人はいない。
●両開きの扉
たどり着くには〈忍び歩き〉を成功する必要がある。もし失敗すると従者に足音を聞かれて、こちらへ向かってくる。
○失敗の場合、避けきれるかは〈DEX×5〉を振って決める。成功なら気づかれることもなく、両開きの扉まで行けて、見回りの人も不思議と思いながらも他の部屋の捜索に戻る。失敗して発見されても、直後に両開きの扉が開いて、冥王ハデスが「連れてこい」と命じる声が聞こえてくる。その場合従者が玉座まで連れて行く。
○最初の部屋で探索を失敗した場合も、従者はこの道を通って探索者を冥王のところへ連れて行く。
見回る従者をかいくぐれば、気づかれずに両開きの扉の向こう側へと行ける。
中はカーペットが敷いてあって、装飾は黒と紫色が基調になっていてるがところどころ金色のものも見える。両側の壁にはいくつか扉があるが、しまっていて中は見えない。探索者はその中の一つから入ってきたことになる。冷えた空気と相まって荘厳な雰囲気が漂っている。
しかし探索者が注目するのは、部屋よりも右の方向にいる二人……王様のように玉座に座っていて、威圧感のある黒髪の男と、彼と言葉を交わしている男――もう一人の探索者だろう。
●【ヒーロールート】の探索者が気絶や「死亡」した場合
冥王と会話することもなく、玉座に向かって目を閉じ直立しているだけのように見える。この時点では【ヒーロー】探索者の意識はまだ戻っていない。
――― × ――― × ――― × ―――
【ヒロイン】は最初に気絶していたため、そこの時間を調整することで、進行に構わず、探索者二人は同じ時間に合流地点にたどり着くことにする。
冥王と会話していた【ヒーロー】。ちょうど会話が一段落したところで、彼の右後ろのほうにある扉が急に開く。
●【ヒロイン】が隠れ兜をかぶっている場合
誰の姿も見えない。ただ冥王は「来たか」とだけ言ってそちらを見る。
【ヒロイン】は自由行動してもいい。しかし【ヒーロールート】にも書いた通り、冥王に危害を加えることができない。
自ら兜を取って姿を現しても、しばらく経っても取らないとしても、その後冥王は右手を伸ばすと、兜が宙に浮いて彼の手のひらまで漂っていく。探索者は姿を現すことになる。
●【ヒロイン】が従者に連れてこられる場合
従者が【ヒーロー】のところまで探索者を連れて行く。その後、従者は冥王に一礼してから入ってきた扉から退出し、扉を閉める。
●【ヒーロー】が気絶した場合
会話ではなく、【ヒロイン】が近くまで来ると目が覚める。ここで改めて冥王の身分を明かすのがいいだろう。
【ヒーロー】は服も体も傷一つないように見えるが、HPは0になっている。この状態で行動することはできるが、声は出せなくなっている。また、体を触れると冷たく感じるだろう。すべての技能ロールはそのままの数値で振って構わないが、一度でも攻撃が当たれば気絶する。
ここで探索者が冥王に頼んで「地上」に返してほしいというと、彼はこのように返事してくれる。
「一度冥府に落ちたもの、そう簡単に返すわけがない……と言いたいところが、今回は手下の落ち度でもある……仕方がない。しかし、条件付きだ」
(ハデスには、手下が【ヒロイン】を自分の妻ペルセポネと間違えて連れてきたと認識しているので、条件付きではあるが、探索者を帰らせること自体にそこまで反対しない)
そういって【ヒロイン】が出てきたのと反対側の扉を指さすと、そこは自動的に開く。そして【ヒーロー】にこう言う:
「お前が先頭に立ち、女を連れていくがいい。だが、途中一度でも振り返ったら、お前らは永遠にここに残ってもらおう」
●【ヒーロー】が気絶した場合
二人の役割は逆転する。【ヒロイン】が先導して【ヒーロー】を連れて行くことになる。
入り口から覗くと、中は暗く、かろうじて道が見える程度だ。道は狭くて、もし二人が並ぶとぎりぎり通れる程度だ。
探索者たちが中へ入ると、扉はゆっくりと閉まる。さらに暗くなった空間で二人は進んでいくことになる。
●洞窟内で後ろに振り返った場合
出口は閉ざされ、後述の怪物ガストとの戦闘になる。ガストのデータは基本ルールブックP172〜173を参照してください。
勝てたらハデスがまた外に出してくれるかもしれないが、ロストの可能性大。
道は緩やかに上る坂道だが、進んでいくにつれ徐々に広くなっていって、自由に走り回れるぐらいになる。
ここでKPは〈聞き耳〉を振るように要求する。成功すれば後ろから足音のような音が聞こえてきて、何かが近づいてくる気配も感じる。
出口まではまだ距離がある。先頭を歩いてる探索者は遠いところにとても小さな光(ビー玉ぐらいの大きさ)が見え始めたぐらいだ。
そのまま進むと、光は段々と大きくなっていくように見える。
出口が近くなってきたところに、KPはもう一度〈聞き耳+30〉のロールを要求する。成功すれば、さきほどよりも足音が近づいてきてることに気づく。のんびり歩いていると確実に追いつかれる。
それから、ロールの成否関係なしに、地面から震動が伝わってくるのがわかる。歩くには問題ないが確実に揺れてるのを感じる。
●走る、もしくは先へ急ぐと宣言
宣言すれば以下の〈幸運〉ロールを行うこととする。
お構いなしにゆっくり進むのであれば、〈幸運〉は自動失敗とする。
後ろの足音は小さくなることなく、逆に近づいてきてるような気がする。しかし、あと一歩で、光あふれるあの場所にたどり着く。
ここでKPは探索者に〈幸運〉ロールを要求する。
成功した探索者は、間一髪のところ、無事に出口までたどり着く。
失敗した探索者は、後ろから伸びてきた「手」に一瞬触れられた。得体のしれぬ感触に寒気が走る。SANチェック、0/1D3。
失敗しても、出口の光を浴びた瞬間、その「手」は弾かれたようにひっこんだ……と何となく推測できた。
ロールの結果はどうであれ、二人はちゃんと出口から脱出できる。
空から降り注ぐ太陽の光が温かい。周りを見てみれば、そこは「あの世」に行く前に二人が歩いていた道だ。
戻ってきた、と感動する暇もなく、背後から大きな声……怒声のような、悲鳴のような、しゃがれた声があたりに響き渡る。
●振り返らない
二人はそのまま走っていく。背後の声は小さくなり、ついには聞こえなくなった。あの世の気配ももうなくなり、探索者たちはようやく安全を確信した。
●振り返る
二人が出てきたところには縮んでいく洞穴の入り口がある。しかしそんな事よりも、探索者はびっくりするだろう。一対の黄色い目が、探索者たちを見つめている。
「それ」はまるで筋肉を過度に発達させた人みたいに二本の脚で立っている。しかし顔には目以外の部分がなく、にもかかわらずどことなく人間と似ているように感じる。
前のめりでかぎ爪にも見える手を探索者に向けて伸ばそうとしているが、光に触れるとどこからかうめき声を聞こえて、仕方なくあきらめた怪物は恨めしそうに睨みつけてくる。
地底の住人、ガストを目撃した探索者はSANチェック、1/1D8。
その後、出口は消えてなくなり、探索者はようやく安全を確信する。
※ルールブックのデータによると、ガストの目撃によるSAN値喪失は0/1D8だが、実際に回したときは上記のように微調整を加えた。KPはどちらの数値を使うか予め決めてください。
※ガストは光線の直射を受けると死ぬので、洞窟から出てくることはない。
こうして探索者は不思議な旅を終え、日常へと戻った。
※【ヒーロー】ルートのガラス細工の瓶はお持ち帰りできる。ただし普通のガラス細工になって、何の効果ももうない。冥府で見つけた他のものはセッション終了時無くなったこととする。
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〈オカルト〉:ロールなしで1D5成長できる
シナリオクリア:SAN回復 2D6
ガストを見た:クトゥルフ神話技能 1%
ヨグ=ソトースの一部を見た:クトゥルフ神話技能 1%
※ヨグ=ソトースに関しては【ヒーロー】ルートで渡守りを攻撃した場合、【ヒーロー】探索者のみ獲得。
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※シナリオ制作の裏話などです、読まなくてもシナリオを回せます。
ギリシャ神話が好きなのでシナリオを書きました、その第一弾です。シナリオの題名にもなっている、吟遊詩人オルフェウスが亡くなった妻エウリュディケを取り戻すために冥府を赴いた、という話をそのままお借りしています。
始めて完成したCoCシナリオですが、大まかなプロットだけ考えて(とはいえどこでどの情報を出すかはすべて決まった状態)、描写などはツイッターのDMで回しながら補完していきました。なのでシナリオの文章はテストプレイから引用した部分が多いです。しかしDMだからなんとかなっただけで、普段の卓をアドリブで回すのはとても苦手な作者なので、この作り方を採用するシナリオは後にも先にもこれだけなんでしょうね…。
ちなみに、ヒーロールートではオルフェウスの行動を追体験する形になっていますが、ヒロインルートはほぼ自分で考えオリジナル展開で、冥王の宮殿を探索してもらいます(ただし他のギリシャ神話に出てくる冥王や冥府に関するものを取り入れています。ザクロや兜などがそうですね)。
ギリシャ神話の登場人物とクトゥルフの関連付けは、Chaosiumさんが出版したサプリ「Cthulhu Invictus」を参考にしています。特にカローンやケルベロスあたりは結構採用しました。日本語訳はまだありませんが、古代ギリシャや古代ローマに興味のある方はぜひ手に入れて読んでみてください。