マルチジャンル・ホラーRPG インセイン
舞台:現代香港
プレイヤー人数:1人
リミット:2サイクル
狂気カード:4枚
タイプ:特殊型
レギュレーション:基本ルルブのみで遊べます
※クライマックス戦闘はありません。サクッと終わります。
※「賣旗」は実在しますが、この話はフィクションです。
何の変哲もない、土曜日の朝。
あなたが街を歩いていると、ふと声をかけられた。
「旗を一つ、買っていきませんか?」
今日は休日だ。ゆっくりするのもいいが、あなたは朝から出かけることにした。
どんな一日になるのだろうか。
あなたの【使命】は、休日を楽しく過ごすことだ。
本作は、「河嶋陶一朗/冒険企画局」「株式会社新紀元社」が権利を有する『マルチジャンル・ホラーRPG インセイン』の二次創作物です。
©河嶋陶一朗/冒険企画局/新紀元社
本作を遊ぶのにインセインの基本ルールブックが必要です。本文中の「ルルブ」「ルールブック」表記は基本ルールブックを指しています。
この先はGMする方のみ読み進めてください。
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これ以降、※から始まるのはGM情報とする。
とある邪教の組織が邪神召喚の儀式を行うために、生贄を集めようとしている。PCはたまたまその標的に選ばれた。組織の計画では、PCが眠っている間に魔術をかけ、夢を通してPCを操り組織まで連れて行く、はずだった。
しかしその企みは組織と敵対する団体――「生活守護団体」と自称する団体に気づかれた。邪神召喚を阻止するために、「生活守護団体」は狙われた生贄たちを手っ取り早く邪教の魔術から守ろうとして、魔除けの印が描かれたステッカーを「売旗」という手段により配ろうとした。
※邪神はクトゥルフ神話的な存在を想定しているが、全く関係のない邪神でも構わない。
今日は休日だ。ゆっくりするのもいいが、あなたは朝から出かけることにした。
どんな一日になるのだろうか。
あなたの【使命】は、休日を楽しく過ごすことだ。
【秘密】
ショック:なし
あなたは合計1000香港ドルほどの現金と、クレジットカードを所持している。
何かお買い物して帰ろうか。ほしいものに出会えるのかな。
※1香港ドル=13~14円ぐらい(2021年現在)
1:開店したばかりの洋服屋を覗き込めば、まだ人が少なくてゆっくり見て回れそうだ。
2:少し先にストリート・フードを売っている店があるようだ。フィッシュボール、ソーセージ、シュウマイ……どれも美味しそうだ。
3:近くのバス停に2階建てのバスが止まった。観光スポットへ向かう路線のようだ。
4:美味しそうな匂いに振り向けば、パン屋に焼きたてのエッグタルトが並べてあった。
5:車道の向こう側に映画館の入り口がある。何か面白い映画が上映されているだろうか。
6:地下鉄駅の入り口が見えた。どこかへ遠出でもしようか?
※フィッシュボール(広東語では「魚蛋」)は、すりつぶした魚肉に調味料などを加え、団子状に丸めてから揚げる(もしくは茹でる)ことでできる料理です。ストリート・フードの店で売っている物は串に刺して提供されることが多い。また、カレーソースで煮る「カレーフィッシュボール(咖喱魚蛋)」も昔から人気のある食べ方です。
※ちなみに、ソーセージやシュウマイも串に刺して提供されることが多いです。
4枚使用。ランダムで選出しても構わない。
例:広がる恐怖、盲目、現実逃避、恐怖症
※あくまで一例であって、ほかの狂気カードを使っても構わない。
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○PCが香港に住んでいる・住んだことがある場合
とある土曜日、仕事は休みだがPCは朝から出かけることにした(理由は好きに設定して構わない)。
街を歩いていると、一人の女性が近づいてくる。彼女はたくさんのステッカーが印刷されている台紙と、お金の投入口がついているバッグを手に持っている。
「おはようございます!旗を一つ、買っていきませんか?」と女性はPCに話しかけてくる。
PCは「旗を買う」ことについて知っている。GMは【売旗について】の項目を開示してください。
○PCが香港に住んだことがない場合
旅行または仕事で香港に訪れたPCは、土曜日の朝、観光に出かけることにした。
街を歩いていると、一人の女性が近づいてくる。彼女はたくさんのステッカーが印刷されている台紙と、お金の投入口がついているバッグを手に持っている。
「おはようございます!旗を一つ、買っていきませんか?」と女性はPCに話しかけてくる(外国人だとわかる場合は英語で話しかけてくる)。
旗とはなんのことだ?とPCは疑問に思うだろう。その反応を見て、女性は「あ、もしかして旅行に来た方ですか?」と気づき、「売旗」を説明してくれる。GMは【売旗について】の項目を開示してください。
○売旗について
・慈善団体が募金するために、政府から許可をもらって「売旗」をする。
・昔は本物の旗を売っていたが、現在は旗の代わりに、慈善団体のロゴや名前が描かれたステッカーになった。
・「売旗」する人が持つバッグにお金を入れると、募金した証にステッカーがもらえる。
・もらったステッカーは基本的にわかりやすく服に貼る。
・バッグに入れる金額は自由に決められる。硬貨を入れる人が多いが、紙幣の投入口もある。
・「売旗」は土曜日の朝にのみ行われる。夏休みの間は水曜日の朝でも行われるときがある。
※一般的にステッカーの大きさは500円の硬貨と同じぐらい、もしくはそれより少しだけ大きいです。
※「旗」やバッグの写真はこちらを参考にしてください:
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:HK_FlagDay_DonationBag%26Stickers.JPG?uselang=ja
旗を買うかどうかは、PCが自由に決めてもいい。もしPCが買うのなら、もらったステッカーを服に貼るように薦めるといい。
※買わなくても展開に影響はない。慈善団体について尋ねるのなら、PCも知っている国際的に有名な団体だと答えるといいだろう(例としてあげるのなら赤○字社など)。
※入れる金額は、コイン1枚~数枚ぐらいが一般的。10ドル以上を入れる人は珍しいほうなので、もしPCが大金を入れるのなら、女性はすごく喜んでお礼を言ってくるだろう。
女性と別れて、PCは改めて本来の目的地へ向かうことになる。
暫く道を歩いていると、先ほどの場所からだいぶ離れたところで、PCは再び見知らぬ女性に話しかけられる(先ほどとは違う女性)。
「おはようございます、『生活守護団体』です!旗を一つ、買っていきませんか?身に着けていれば危険から守ってくれるステッカーですよ!」
よく見れば、彼女が持っているステッカーは先ほどのとは違う物のようだ。違う団体でも「売旗」をしているのだろうか?危険から守ってくれるとはどういうことだろう…。
GMは「売旗」と「ステッカー」のハンドアウトを公開し、メインフェイズに移行してください。
○ゾーキングに関して
ゾーキングによって開示される重要な情報はない。
メインフェイズの間に女性から「旗」を買った場合、そのままステッカーを渡して構わないが、クライマックスで女性がPCに話しかけて注意することを忘れないように。
ステッカーを触ってみても普通のものと何ら変わりのない、身につけてもおかしな反応は起きない。ただのステッカーのように感じる。
以下の情報はNPC(売旗の女性)に聞くと、またはPCがスマホなどで調べると手に入れられる。
・「売旗」が行われる時間
正確には朝の7:00から昼の12:30までの間のみ許可されている(2020年現在)。
PCはその間に出かけている。特にこだわりがなければ朝10時ぐらいを想定している。
・「生活守護団体」について
女性に聞けば、「人々が安心して安全な日常生活を送れるようにサポートする団体です!」と答える。普段もお守りなどを配っているようだが、宗教団体なのかと尋ねたら「むしろある意味逆ですね…?」と言う。これ以上の詳細は語らない。
ちなみにネットで検索しても詳細はわからない。
・「守ってくれる」旗について
女性に聞けば、「これから何かよからぬことが起きる予感がします。でもこの旗を身に着けていればあなたが被害を受けることがなくなりますよ」と答える。
「よからぬこと」が具体的にどんなことなのかは教えてくれない。
※真実を話したら逆に信じてもらえないだろうと、背景に関する内容は話さない。
・香港の貨幣について
通貨単位は香港ドル、またはセント。
硬貨の種類は10セント、20セント、50セント、1ドル、2ドル、5ドル、10ドル。
紙幣の種類は10ドル、20ドル、50ドル、100ドル、500ドル、1000ドル。
100セント=1ドル。1香港ドル=13~14円ぐらい(2021年現在)。
店によっては1ドル未満の硬貨、また1000ドル札を受け取らない場合もある。
○マスターシーン
このシナリオにマスターシーンはない。
まだ女性から旗を買っていない場合、PCに買うかどうかを決めてもらう。
PCが迷っているのなら、女性から改めて「10セントでも構いませんので、ぜひ買っていきませんか?」と提案する。
PCが旗を買った場合、女性は喜んでステッカーを渡して、以下のように続ける
「ありがとうございます!今日一日中、着ている服にこのステッカーを貼ってくださいね。夜寝るときでも必ず。絶対守ってくれますので!」
PCがアドバイスに従うかどうかを、GMは必ず確認してください。
旗を買ったかどうかに関わらず、PCはこのまま女性と別れて、元の予定をこなすことになる。PCの目的地に合わせて、GMが適宜に描写してください(楽しく過ごすことができれば、使命達成とする)。その後、エンディングに移行する。
PCが旗を買ったかどうか、また着ている服に貼っているかどうかによってエンディングが決まる。
○旗を買った上、その夜眠るときに服に貼っている
休日を堪能したPCは夜、ステッカーを寝間着に貼ってから就寝した。
何か夢を見たような気がするが、途中で起きることもなくぐっすりと寝られただろう。
翌日の朝。目覚めたPCがステッカーを見れば、描いてあったはずの五芒星マークがなぜか消えていたが、他に異変が起きることもなく、PCにとっての日常が戻ってきたようだ。
【END:守られた日常】
○旗を買わなかった、または買ったけど服に貼っていない
休日を堪能したPCは夜、旗のことをすっかり忘れてしまい、いつも通りに就寝した。
PCは悪夢を見る。天にも届きそうな巨大な影から腕のようなものが伸びて、自分の体よりも大きな掌にPCは掴まれてしまう。
体が圧迫されて上手に呼吸もできず、夢の中なのにPCの意識が遠のく――
はっとして、PCは目覚めた。
もう朝なのか?今日の天気を確認しようと、起き上がるPCはそこで気づく。
目に映るのは見知らぬ部屋。ここは、一体どこだ?
【END:始まる非日常】
※「目が覚めたら見知らぬ部屋にいた」という、CoCなどのホラー系シナリオの導入にありがちな展開。ここから別のクローズドシナリオに継続することが可能であり、その場合、GMが適宜に背景を改変してください。余談だが、作者はこのエンディングを探索者ENDと呼んでいます。
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慈善団体が募金するために行うが、事前に申請する必要があるようだ。
【秘密】
ショック:PC1
売旗をするには政府に申請する必要がある。該当部署のサイトに許可された申請の概要が載っているはずだが……「生活守護団体」のものはどこにも載っていなかった。
《メディア》で恐怖判定を行う。
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※シナリオ制作の裏話などです、読まなくてもシナリオを回せます。
プロフィールにも書いてありますが、私は香港人なので、香港を舞台とするシナリオをずっと前から書いてみたかったのです(それこそシナリオを書き始める頃から)。ただ、舞台をするのならその場所でやる必要がある物語にしたい、という考えがずっとありまして。なら香港を題材にする場合は何の要素が使えるのでしょうか。
最初の頃はCoCシナリオをメインに書いていたので、SOHO(多国料理のレストランが集まる地区)で何か大事件が起きて、なんやかんやで事件を追っているうちにクライマックスシーンは高層ビルの屋上で黒幕と対決!みたいなものも考えたことがありますが、なんとなくしっくり来ないというか、事件もあまり趣味じゃないな~と結果的に没になりました。背景に邪神が関わってきたのはそのときの名残かもしれません……探索者エンドを迎えたPCはそのままCoCにコンバートすることもできますね!(インセインの他のクローズドシナリオにももちろん継続できます)
それからだいぶ時間が空きましたが、ふと街中か何かで賣旗している人を見かけました。あれ、これって香港特有の文化では?と突然ひらいめいて、調べてみたら(募金の形態は色々ありますが)「旗を売る」というやり方は少なくとも万国共通ではなく、むしろやっている国が少ないようで、題材としては申し分ないと認識しました。あとは暫く寝かせているうちに具体的な構成を思いついて、添削しているうちに今の形になりました。
自分で行ったテストプレイではPCはみんな日本人なので、旅行目的で香港に訪れてこの話を経験していかれました。なのでセッション中に、こちらの美味しい料理やスナックとか、観光のおすすめスポットなどをたくさん紹介できて楽しかったです。シナリオのようなホラー体験には遭遇しないと思いますので、遊んでみて香港に興味をもって、訪れてみたいと思ってもらえれば嬉しいです!
今回の難しかった部分は、香港人である私の感覚でシナリオを書きましたので、説明不足や理解しづらい部分がないかはっきりしないことです。これに関しては本当にテストプレイのときに色々聞いてくださったPLさんたちや、校正してくれた友人に感謝しなければなりません!補足を色々入れたものの、まだ分かりづらいことがあれば教えてもらえると助かります。
売旗の情報は導入で出す部分とハンドアウトに入れる部分のバランスをかなり迷いましたが、今の感じでちゃんと伝わるといいですね……!