瞼を開けて、歌を紡ぎだす。
広い舞台の中心にたった一人だけ、観客がいなくとも、歌姫の声が響き渡る。
鳥かごに閉じ込められた、このステージの上で、ずっと、ずっと。
nRRシナリオ
舞台:現代(任意の国)、クローズド
時間:テキセ2時間程度
難易度・ロスト率:低い
推奨人数:1人
※戦闘なし、サクッと終わる一本道なシナリオです。
いつも通りの日常。
町を歩いているあなたはふと、頭上から小鳥の鳴き声が聞こえてきて――。
本作は同名のクトゥルフ神話TRPGシナリオをnRRにコンバートしたものです。クトゥルフ神話の要素をすべて削除したが、シナリオ展開はほぼ同じものになります。
本シナリオを遊ぶのにPCを作成する必要はありませんが、本文・地の文で使われる「あなた」はPCのことを指しています。また、任意のPCで参加すること自体は可能です(現代に生きるPCであればシステム不問)。
本作は『nRR』システムを用いたシナリオです。
powered by nRR
https://nrr-trpg.com
この先はGMをする方のみ読み進めてください。
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あるところに一人の魔術師がいた。持っている少し不思議な力を隠しながら、彼は一般人に紛れて、マンションの一室を借りて生活していた。
男には小鳥の姿をした使い魔が何羽かいるが、お使いを頼むこともあれば、単純にペットとして飼っている子もいる。その中でも、金色の羽根を持つ「ロニ」は、とても上手に歌うことができるから彼のお気に入りだ。
彼はロニを鳥かごに入れて、他の小鳥と違って書斎で飼うことにした。書斎を選んだ理由は、彼が一日の中で過ごす時間が一番長い部屋だからだ。
そうして本を読んだり、魔術を研究したり、その成果を時々ロニに話しながら、日々が過ぎていく。
ロニがいろんな歌を覚えた頃、彼は魔術師としての仕事を引き受けて出かけたが、それから行方不明になった。
主人をなくした使い魔たちは自力で脱出し、次々と逃げていった。しかし、白い羽根を持つ「リロン」だけは、一度だけ見かけたことのあるロニのことを心配し、彼女のもとへとやってきた。
そこで彼は知った。彼女が出てこれない理由と、彼らの主人がお気に入りの彼女に対して施した魔法を。
リロンは誓った。逃げるなら、絶対彼女も連れて行く。
だから、主人から「習った」僅かな魔術を駆使して、彼は今日も鳥かごの魔法を解いてくれる人を探し求め、連れてこようとする――。
本シナリオの判定結果には「成功」と「失敗」の処理しか書かれていない。「ファンブル」、「クリティカル」や「ミラクル」が出た場合、GMが適切だと思う処理をしても構わないが、進行が滞らないためには以下の処理を提案する。もしくは、通常の成功や失敗として扱っても構わない。最終的にGMが一番処理しやすい方法を採用してください。
・ファンブル:次の判定で、指定されたダイスを2回振り、出目が低いほうを採用する。
・クリティカル:次の判定で、指定されたダイスを2回振り、出目が高いほうを採用する。
・ミラクル:次の判定で、指定されたダイスを3回振り、もっとも高い出目を採用する。
次のページ以降、「※」から始まる情報はGM向け情報です。
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なんの変哲もない朝。天気がよくて、青空がとてもきれいに見えるそんな日に、あなたはいつも通り(学校または仕事場へ向かうなどの理由で)町を歩いている。その途中、あるマンションの前を通りかかったとき、突如頭上から、鳥の鳴き声がやけに大きく耳に響くように聞こえてきた。
見上げれば、マンションの一室の窓から真っ白な羽根を持つ小鳥が見える。あなたと「目が合った」小鳥は口を開き再び鳴き始める。不思議なことに、窓が閉まっているのに、鳴き声はさきほどよりももっとはっきりと聞こえてきて、そして、周りの音をすべてかき消し、あなたの意識をも奪い去っていく――。
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眠りから覚めたように、あなたははっとして目を開ける。何が起きたかを把握できないまま、自分がただ俯きながら立っている事実を認識するだろう。足元へ向けている視界に映るのは、地面ではなく、混ざり合う青と白……雲と青い空だった。そしてあなたは気づく。自分が踏みしめているこの「足場」だけではなく、どこへ目を向けても、白い雲の流れる青空が目に入ることを。この「空間」全体が、空に囲まれているみたいだ。
あなたが宙に浮いてるわけでもないし、落ちることもなく、見えない足場に立っているように感じるだろう。青空に囲まれているが、雲は触れるほどの近さにはなく、周りには特になにもないように見える。
足場に触れようとするのなら、何も触れられずまっすぐ下へ手を伸ばすことができる。しかし普通に立っていたり、歩いたり、転んだりするときは絶対に「落ちる」ことはなく、見えない足場が受け止めてくれる。
あたりを見回すのなら、暫くしてからきれいな歌声が聞こえてくる。
○歌声をたどる:「有利ダイス」判定
成功で、すぐに声の聞こえる方向が分かる。
失敗した場合、時間がかかるが方向がわかる。また、下記の「♪判定」に使うダイスが「ノーマルダイス」になる。
音をたどれば、無限に広がる青空の中に浮かんでいるように存在する一つだけの鳥かごが、あなたから少し離れた距離にあると気づく。
ここで以下の判定を行い、【♪判定について】の項目にある処理を行ってください。
○♪判定:「有利ダイス」で判定
※「歌声をたどる」判定に失敗した場合、「ノーマルダイス」の判定になる。
少女の歌声を聞き続けることによって発生する判定。この空間内では耳を塞いでも(ヘッドホンなどをつけていても)完全に聞こえなくなることはない。
この判定に失敗するたび、失敗した回数に応じて以下の効果が適用される(ただし、♪判定には補正が適用しない)。GMは失敗した回数を記録すること。
1回目:この不思議な世界を居心地がいいと思う(補正なし)
2回目:少女の歌声をずっと聞いていたいと思う(補正なし)
3回目:なんとなくこの世界に残りたいと思う(「不利ダイス」以外の判定をすべて「ノーマルダイス」に変更)
4回目:この世界にいるほうが幸せになれると思う(判定をすべて「不利ダイス」に変更)
5回目:元いた世界に戻りたくない気持ちが強くなる(すべての判定は自動失敗になる)
6回目:ずっとこの世界にいるべきだと確信する → 強制的に【END B:箱庭に響くシンフォニア】へ。
※5回目までは効果が適用されても、RPなどで自分の意志をPLの思い通りに示したり、NPCと会話することも問題なく行える。この時点で情報はすべて集まっているはずなので、どのエンディングへでも向かうことができる。
この時点から:
少女を連れ出さない上、自分の意志でこの世界に残りたいと願った場合、【END B:箱庭に響くシンフォニア】へ。
行動を起こさない、鳥かごを無視する、または少女を連れ戻すことを放棄し、自分だけで帰りたいと願った場合、【END C:別れを告ぐソナタ】へ。
鳥かごを調べるのには近づかなければならない。鳥かごに向かって歩いていくのなら、相変わらず何も見えないのに、ちゃんとした足場の上で歩く感触がする。あなたは危なげなく目的地にたどり着けるだろう。
鳥かごの中は演劇の舞台のようになっている。照明がどこにも見当たらないのに、舞台の中央に向けて光が照射していて、そこに立っている一人の少女を照らし出す。金色の長い髪は腰まで伸びていて、黒目がちな瞳を少し伏せながら彼女は歌っている。白いドレスが舞台上に広がり、幼さが残る面影は儚げな雰囲気を少女に持たせる。まるで童話に出てくるお姫様のようだ。
彼女に近づくにつれ、歌声がだんだんと大きくなっていく。透き通る声が、聞いたことのない言葉を優美な旋律に乗せて、一曲、また一曲と歌を紡ぎだす。
鳥かごは金属製のものだ。扉は閉ざされているようで、入り口はちょうどあなたの「足場」と同じぐらいの高さにある。鳥かごの中にある「舞台」の上には白い羽根が散りばめられている。
○鳥かごの扉に触れる、または開けようとする:【鳥かごの扉】の項目へ。
○少女に話をかける:あなたが外にいる限り、反応なし。
○鳥かごの中を観察:「ノーマルダイス」の判定に成功で、羽根のほかに、何か小さくて白い物も落ちていると気づくが、羽根に埋もれているため、中に入って拾ってみなければ詳細はわからない。白い物は結構な数があって、舞台のあちこちに散りばめられているようだ。
○空または足場などを調査する:先述した結果と変わらない。
触れた瞬間、何かの映像があなたの脳内に流れ込む感覚を覚える。
GMは【記憶:主人】の内容をPLに開示してください。
○記憶:主人
鳥かごの代わりに、目の前の景色は誰かの書斎に変わったようだ。
壁一面の本棚には本がぎっしりと詰められており、手前にデスクが置いてある。そこには一人の男性が座っている。30代前半に見える彼は、読んでいた本を閉じてデスクに置くと、かけていた眼鏡をはずして立ち上がる。そのまま隣にある、スタンドにかけてある鳥かごの前まで歩いていく。
「また歌ってくれるかい?『 』」
男が言葉を発するが、なぜか最後の部分が聞き取れない。そのまま目の前の景色がぼやけていく。最後に目にしたのは、金色の羽を震わせ、口を開こうとしている、かごの中にいる美しい小鳥だった――。
※男性はロニの主人(魔術師)だった。主人の性別、容姿や年齢に関してはGMが自由に変更してもかまわない。
「記憶」を見たあなたは、少女の歌声が聞こえて、意識が現実に引き戻される。鳥かごを見れば、触れただけで動かしていなかった扉は、いつの間にかかすかに開かれている。あなたはどうやらそんな鳥かごに触れたまま、誰かの記憶を幻視していたようだ。
○♪判定:「有利ダイス」で判定
※GMはこの判定の後、【♪判定について】の項目を参照し相応の処理を行ってください。
ここからあなたは扉をくぐって、鳥かごを自由に出入りできるようになる。中に入れば、少女と会話をすることや、舞台を調べることができる。
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前述した、外から判定(観察)して見つけられる「白い物」は、あなたが鳥かごの中にいればロールなしでも見つけられる。白い羽根に埋もれているので、拾いあげようとすれば必ず羽根を触れてしまう。その場合【白い羽根】の項目に記載された処理を行ってください。
舞台にある羽根に触れると、また別の記憶があなたの脳内に流れ込む。
GMは【記憶:少年】の内容をPLに開示してください。
○記憶:少年
「ねえ、いつまでそこにいるつもりなの?」
青空に囲まれている鳥かごの中から、声の主を振り返る。外から話しかけてくるのは銀髪の少年で、とても心配そうにこちらを見ている。
「もうあいつはいなくなっただろ?だったら――」
「できないの」
少年の声を遮るように、少女の声がとても近い距離から聞こえる……近くて、まるで、自分自身が声を発しているような。
「どうして?!」
「呼ばれない限り、出ていくことはできないの。ここで歌うことしかできないの」
「なら俺が呼んであげる!お前の名前は?」
「……わからない」
記憶の主が俯いたのか、視界に映るのは鳥かごの底、舞台となっているその場所だ。
しばしの沈黙が流れた。やがて、少年の声が再び聞こえてくる。
「わかった!俺がなんとか思い出させるよ!そしたら一緒にここから出よう!」
弾かれたように、視線は再び鳥かごの外へ向けられる。そこには決心のついた眼差しを持つ少年の姿があった。
「待ってて!絶対に出してあげるからね、この『 』に任せて――」
少年は最後に何と言ったのか。またもや聞き取れないまま、あなたは現実に引き戻されてしまう。少女は相変わらず歌い続けている。
白昼夢でも見ていたのかと自身を疑うどころだった。あなたが触れていた羽根は光を放ち、輝く粒子に分解され、空気に溶けるように消えていく。舞台上にあるほかの羽根も同様に、すべて消えてなくなった。残っているのは「白い物」……真っ白な「真珠」のみだ。
○♪判定:「ノーマルダイス」で判定
※GMはこの判定の後、【♪判定について】の項目を参照し相応の処理を行ってください。
羽根がすべて消えたあと、舞台上に散りばめらている白い真珠を拾うことができる。真珠は数が多く、見た目はほとんど同じため見分けがつかない。
○適当に拾う
一つ拾うたびに「有利ダイス」で判定する。成功で、美しい旋律が頭の中で流れ始める。失敗すると、呪文のような、意味不明な言葉の羅列が聞こえてくる。
※少女が主人に教えてもらった歌が実体化した物で、一つの真珠=一曲というイメージ。失敗した場合に聞こえたものは魔術を使うために歌う呪歌。
※少女に真珠を見せると、あなたがそれを拾ったときに頭の中で流れる曲をそのまま歌ってくれる。
○真珠を調べる
触れなくても、「有利ダイス」で判定して調べることができる。成功で、白い真珠に混じって、違う宝石を二つだけ見つけられる。一つは透明なものだけれど、きれいに光を反射する宝石。もう一つは透明な宝石と似ているが、少し黄色を帯びている。
判定に失敗した場合、以下の「♪判定」を行い、その後上記の成功情報を開示してください(時間をかけて探索を行ったという処理)。
○♪判定:「Exダイス」で判定
※真珠に対する判定に成功していれば発生しない。GMはこの判定の後、【♪判定について】の項目を参照し相応の処理を行ってください。
○透明の宝石と黄色の宝石
それぞれに「不利ダイス」で判定を行える。成功で、透明の宝石はダイヤモンド、黄色の宝石はイエローダイヤモンドだとわかる。
透明の宝石(タイヤモンド)を拾うと、「リロン」と少年が誰かの名前を呼ぶ声が脳内に響く。
黄色い宝石(イエローダイヤモンド)を拾うと、「ロニ」と男性が誰かの名前を呼ぶ声が脳内に響く。
※PCに二つの【記憶】が流れ込むときに聞き取れなかった部分。なのでロニは主人に呼ばれていて、リロンは自分の名前を告げている。
※少女は二つのダイヤモンドを目視することも触れることもできない。
二つの名前を手に入れたら、以下の「♪判定」を行ってください。
○♪判定:「ノーマルダイス」で判定
また、この時点ですべての情報が出そろったため、PLが行動に迷うことがあれば、リアル時間15分に一度下記の「♪判定」を行ってください(ボイセ・オフセの場合はもっと短い間隔にするのがいいかもしれない)。
○♪判定:「不利ダイス」で判定
※GMは「♪判定」が行われるたび、【♪判定について】の項目を参照し相応の処理を行ってください。
○会話
鳥かごの中にいれば、少女と話すことができる。話かけると、彼女はいったん歌うことを止めて、質問に答えてくれる。
彼女はあなたがどうやってこの場所に来たのかも、帰る方法も知らない。また、何を言われても無表情のままあなたを見つめて、感情の起伏を見せない。
あなたが見せられた記憶の中の出来事は彼女も知っているし、覚えている。ただしあなたが聞き取れなかった言葉は彼女の忘れた言葉なので、その言葉について、もしくは直接名前を尋ねてもわからないと返される。
少女は名前を思い出すまで、「1人でいるよりは歌を聞いてくれる観客がほしい」と思っている。あなたが話をかけたら、GMは彼女に「あなたは、私の観客になってくれる?」と質問させるといいだろう。承諾するのなら、「本当?じゃあずっとずっと、永遠に、ここにいてくれる?」と確認する。この質問に躊躇いもせずに肯定の返事を出した場合、【END B:箱庭に響くシンフォニア】へ。
あなたとの会話が終われば、彼女は再び歌いだすだろう。
※少女の考えを知りたいとPLから提案された場合のみ、「ノーマルダイス」での判定に成功すれば、(結果的にロストへと導くことになるとはいえ)彼女は純粋に観客に歌を聞いてほしいだけなので、PCに害意は一切持ってないことが分かる。GMがロールの結果に合わせて描写するといいだろう。
他の会話例:
あなたは誰? → 「私は……私。名前はわからないの」
ここで何をしている? → 「主のために、歌を歌っていたの」
主は誰? → 「主は……いろんな歌を教えてくれた、主。私の知っている歌はすべて、主が教えてくれた歌」
どうして歌い続けているの? → 「私の、唯一の役目だから」
ここから出たいの? → 「……出られないよ。名前を覚えてないから」
○無理やり連れ出そうとする
少女を引っ張り連れ出そうとするのなら、特に抵抗せずにあなたについていく。だが鳥かごの入り口まで行くと、見えない壁に進路を阻まれて出られない。
それでも強行突破しようとすると、あなたも少女も見えない壁に押し返されて、床に倒れる。
※PCのみなら、鳥かごを自由に出入りできる。少女に触れていると壁に阻まれる。
○危害を加える
少女に物理的に攻撃しようとすれば、どこからともなく「彼女から離れろ!」と叫ぶ、聞き覚えのある少年の声が聞こえる。【END C:別れを告ぐソナタ】へ。
※記憶の中の少年、リロンの声。リロンは同じ空間内にはいないが、どこかでずっとあなたたちを見ている。
○「リロン」の名前を告げる
少女にその名前を告げると、「りろん……リロン……」と彼女は何回か繰り返しつぶやいてから、小さく微笑みを浮かべて、「……あの方の、名前」と話す。しかしそれ以降また無表情になる。
GMは【♪判定について】の項目での処理を1段階前に戻してください(かかる補正も1段階前に戻る)。
※記憶の少年の名前は「リロン」であり、少女がそれを思い出すことで外に出たい意思が強くなるため、歌の効果が薄まる。
○「ロニ」の名前を告げる
「ろに……そう、私の名前は……」少女ははっと目が覚めたように鳥かごの外を見る。
「今なら、あの方の元へ……」そう言って彼女はあなたに振り返って、「あなたも、一緒に戻る?」と問いかける。
戻ると答えたら、【END A:青空に響くカンタータ】へ。
戻らないと答えたら、少女は「ここに残れば、この場所と一緒に消えてなくなるけど、いいの?」と確認してくる。それでも戻らないと答えるのなら、【END D:取り残されたフィナーレ】へ。
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少女を連れて、鳥かごから出ていくエンド。
鳥かごから外へ出て、一歩踏み出せば……今まであった足場の感触がなく、あなたはそのまま、果てしない空へと「落ちていく」。
重力に抗える術もなく、あなたの意識はそのまま薄れていく。視界が完全に黒く染まる寸前、「ありがとう」と聞き覚えのある少年の声が聞こえた。
あなたははっとして瞼を開ける。長い間気を失ったような気がするが、たった一瞬だけのようにも感じる。目の前には見知った風景……自分が最初に歩いていた町の景色だ。
白昼夢でも見ていたのか、と思った瞬間、頭上から鳥の鳴き声が聞こえる。見上げれば、金色の羽根を持つ小鳥と白い羽根を持つ小鳥が一緒に、果てしない空の向こうを目指すように、遠くへ飛び去って行った。その鳴き声が紡ぎ出している歌も、だんだんと遠のいていって、やがて聞こえなくなる。
きっと彼らの歌が聞こえるのもこれが最後だと、そんな予感を抱きながらあなたは日常へと戻っていくだろう。
○シナリオクリア
少女と一緒に、青空の空間に残るエンド。
残ってくれるあなたに向けて少女は告ぐ。
「ずっと、私の歌を聞いてくれるの」
「なら、これから私はあなたのために歌いましょう」
少女の歌声は絶え間なく、この閉ざされた世界(はこにわ)に響き渡る。それを聞き続けて、あなたはだんだんとすべてのこと忘れていき、ずっとこの声を聞いていたいと自然と願ってしまう。
ずっとここにいて自分はどうなるのか、「現実」での自分はどうなってしまうのか、もはやどうでもいい。あなたはこれからもずっと少女の観客であり、彼女とともに鳥かごに囚われてしまうのだ。
○キャラクターロスト
少女のことを無視する、または少女に危害を加えようとするエンド。
行動をした直後、あなたの視界が白く染まり、体が「下」へと落ちていく感覚を覚えつつ、途中で意識を失ってしまう。
悪夢から覚めるように、あなたがはっとして目を開けると、そこには見知った風景……自分が最初に歩いている町の景色がある。隣のアパートを見上げても、鳥の姿などなく、窓は閉まったままだ。
白昼夢でも見ていただろうか。そう考えながらあなたは再び歩き出して、日常へと戻っていくだろう。
○シナリオ終了
少女が出ていき、あなたが残るエンド。
残りたいというあなたを、少女は引き止めない。阻まれることなく鳥かごから出ていく少女の体は光に包まれて、やがて粒子に分解され、空中に溶けて消える。
同時に、「青空」に亀裂が走る。パリン、という音とともに、「世界」が砕け散り――あなたの意識もまた、そこで途絶えてしまう。
○キャラクターロスト
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シナリオ中に出てくるものについての解説です。読まなくても回せます。
人のように思考できたり、心が形成されたり、個体によっては魔術も少し使える。
リロンとロニ以外の鳥もその性質から「逃げ出したい」と自ら思うようになった。
執筆開始の前に木村亜希子さんが歌う「カナリア」を聞いていたので、金色の羽根を持つカナリアというイメージになっている。よく「歌う」のはオスだが、調べたところメスなのに歌がとてもきれいなものも居るという情報もいっぱい見つけたので、今回は「彼女」で、人間を模した姿も少女になっている。
名前はヘブライ語由来で、「私の喜び」「私の歌」の意味がある。
ちなみに「カナリア」はこのシナリオのテーマソングとして使っても似合うと思う。
同じく名前はヘブライ語由来で、「私のための喜び」「私のための歌」の意味がある。
真っ白な羽根を持つ以外特に設定していないので、どんな鳥かはGMが決めても構わない。
性別はオスなので人間を模した姿は少年になっている。
ロニの「心」を具現化した世界。この世界ができたのも、リロンがPCを連れてこられるのも、上記二人の性質のせい。
主人の魔術師が彼女を逃がさないために、一部の記憶を封じ込む魔術をかけた。その中でも一番大事なのは「自分自身の名前」。主人に名前を呼ばれることもあるが、魔術のせいで覚えることができないため、外から呼ばれるだけでは魔術を解くことはできず、心の中から「思い出す」ことができなければならない仕掛けになっている。
最初から鍵はかかっていない。PCが最初に触れたときもそのまま開いた。物理的な鍵開けはリロンにもできていたけど、魔術は解けなかったので扉が開いていてもロニは外に出られなかった。
リロンの羽根のイメージ。何度も来てくれるリロンがロニの心に残した「足跡」みたいなもの。ロニもリロンを気に入ってるのでこうして彼のことを心に留めている。
ロニの宝物。真珠は教えられた歌、二つのダイヤモンドは彼女の思い出せてない二つの名前。思い出せてないから、見ることも触ることもできない。
鳥かごはもういらない、解放されて身も心も自由になったことを表現している。ロニの心が壊れたわけではなく、ただ箱庭に収まり切れなくなったので、古い縛りを破ってこれからは好きなだけ広げられるというイメージ。
ほぼWiki調べだけど、
カンタータ(Cantata):「歌われる」の意味で、歌に伴奏を付けた音楽
シンフォニア(Sinfonia):カンタータの後奏曲に使われることがある(序曲や間奏曲もあるが)、シンフォニー(Symphony)のイタリア語でもある。シンフォニーは基本的に複数の楽器による大規模な楽曲である
ソナタ(Sonata):「演奏された曲」の意味で、正真正銘カンタータの正反対
フィナーレ(Finale):最終楽章、終曲
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※シナリオ制作の裏話などです、読まなくてもシナリオを回せます(エモクロア版と共通です)。
気付けばこのシナリオのCoC版が公開されてから結構な年月が経ちました。そちらのあとがきにも書きましたけど、このシナリオの「背景」情報は後付けなもので、正直CoC要素がなくても成立するものでした。ただ執筆当時、nRRはもちろん、エモクロアもまだ存在しないシステムだったので、一番「やりたいこと」ができたのがCoCでした。
コンバートしようと思ったきっかけはnRRの発表でした。「お手軽に遊べるなら自分も何か書きたいな~とはいえ特にアイデアはありませんが……あれ、カンタータからCoC要素を取り除けば行けるのでは?そこそこダイスを振ることになるし!」という経緯を経て、せっかくだから結構汎用な感じのエモクロア版も一緒に仕上げよう!と二つのVer.ができました。シナリオを書いてる現在、エモクロアの経験卓数はまだ片手で足りるので、どこか解釈を間違っていないか?と心配もありますが、シナリオとしてはちゃんとまとまっていると思います。いかがでしょうか?
もともと「景色がきれい」「短時間でたくさんサイコロが振れて楽しい」と身内で好評を受けているシナリオなので、これからもいろんな方に楽しんでいただけると嬉しいです。改めまして、エモクロアやnRRなどの素晴らしいシステムが公開されていることに感謝しています。
今後はマギカロギアメインで活動していくので、CoCもエモクロアも新作の予定はありませんが、もし気が向いたらまた他のシナリオもぜひ覗いて見てくださいませ!