瞼を開けて、歌を紡ぎだす。
広い舞台の中心にたった一人だけ、観客がいなくとも、歌姫の声が響き渡る。
鳥かごに閉じ込められた、このステージの上で、ずっと、ずっと。
クトゥルフ神話TRPG
舞台:現代(任意の国)、クローズド
時間:テキセ1~2時間
難易度・ロスト率:低い
推奨人数:1人
推奨技能:目星
※戦闘なし、サクッと終わる一本道なシナリオです。
いつも通りの日常。町を歩いている探索者はふと、頭上から小鳥の鳴き声が聞こえてきて――。
本作は、「Chaosium Inc.」「株式会社アークライト」「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
©Chaosium Inc./アークライト/KADOKAWA
本作を遊ぶのにクトゥルフ神話TRPGの基本ルールブックが必要です。本文中の「ルルブ」「ルールブック」表記は基本ルールブックを指しています。
この先はKPをする方のみ読み進めてください。
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あるところに、邪神の信者である魔術師がいた。
マンションの一室を借りて生活している彼は、ペットとして何羽かの鳥を飼っていた。その中でも、金色の羽根を持つ「ロニ」は、とても上手に歌うことができるから彼のお気に入りだ。
彼はロニの鳥かごを書斎へ持っていき、他の鳥とは違う場所で飼うことにした。書斎を選んだ理由は、彼が一日の中で過ごす時間が一番長い部屋だからだ。
そうして本を読んだり、魔術を研究したり、その成果を時々ロニに教えたりしながら、日々が過ぎていく。
ロニがいろんな「歌」を覚えた頃に、彼は彼の崇拝する邪神を召喚するなんらかの儀式を参加し、それから行方不明になった。
主人をなくしたペットは、自力で鳥かごから脱出し、次々と逃げていった。しかし、白い羽根を持つ「リロン」だけは、一度だけ見かけたことのあるロニのことを心配し、彼女のもとへとやってきた。
そこで彼は知った。彼女が出てこれない理由と、彼らの主人がお気に入りの彼女に対して施した魔法を。
リロンは誓った。逃げるなら、絶対彼女も連れて行く。
だから、主人から「習った」僅かな魔術を駆使して、彼は今日も鳥かごの魔法を解いてくれる人を探し求め、連れてこようとする――。
次のページ以降、「※」から始まる情報はKP情報です。
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なんの変哲もない朝。天気がよくて、青空がとてもきれいに見えるそんな日に、探索者はいつも通り(学校または仕事場へ向かうなどの理由で)町を歩いている。その途中、あるマンションの前を通りかかったとき、突如頭上から、鳥の鳴き声がやけに大きく耳に響くように聞こえてきた。
見上げれば、マンションの一室の窓から真っ白な羽根を持つ小鳥が見える。探索者と「目が合った」小鳥は口を開き再び鳴き始める。不思議なことに、窓が閉まっているのに、鳴き声はさきほどよりももっとはっきりと聞こえてきて、そして、周りの音をすべてかき消し、探索者の意識をも奪い去っていく――。
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眠りから覚めたように、探索者ははっとして目を開ける。何が起きたかを把握できないまま、自分がただ俯きながら立っている事実を認識するだろう。足元へ向けている視界に映るのは、地面ではなく、混ざり合う青と白……雲と青い空だった。そして探索者は気づく。自分が踏みしめているこの「足場」だけではなく、どこへ目を向けても、白い雲の流れる青空が目に入ることを。この「空間」全体が、空に囲まれているみたいだ。
まるで空に放り投げだされたように感じた探索者はSANチェック、1/1D3。
探索者が宙に浮いてるわけでもないし、落ちることもなく、見えない足場に立っているように感じるだろう。
青空に囲まれているが、雲は触れるほどの近さにはなく、周りには特になにもないように見える。
足場に触れようとするのなら、何も触れられずまっすぐ下へ手を伸ばすことができる。しかし普通に立っていたり、歩いたり、転んだりするときは絶対に「落ちる」ことはなく、見えない足場が受け止めてくれる。
あたりを見回すのなら、暫くしてからきれいな歌声が聞こえてくる。
音をたどれば、無限に広がる青空の中に浮かんでいるように存在する一つだけの鳥かごが、探索者から少し離れた距離にあると気づく。
ここでKPは探索者にPOW×5のロールを振らせて、下記【POWロールについて】の処理を行ってください。
少女の歌声を聞くと発生するロール。この空間内では耳を塞いでも(ヘッドホンなどをつけていても)完全に聞こえなくなることはない。
KPはシナリオに書かれたタイミングで探索者にPOW×nのロールを振らせてください。nの数値は一回目は5で、失敗するたびに-1して、最低値は1になる。成功した場合、次のロールは減らさずに同じ倍数で振ることができる。
ロールに失敗したら、nの数字に応じて、下記の効果を探索者に適用する。
POW×5失敗:この不思議な世界を居心地がいいと思う(補正はなし)
POW×4失敗:少女の歌声をずっと聞いていたいと思う(すべての技能に-10の補正)
POW×3失敗:なんとなくこの世界に残りたいと思う(すべての技能に-20の補正)
POW×2失敗:この世界にいるほうが幸せになれると思う(すべての技能の数値を半減)
POW×1失敗(1回目):元いた世界に戻りたくない気持ちが強くなる(すべての技能が使えなくなる)
POW×1失敗(2回目):ずっとこの世界にいるべきだと確信する → 強制的に【END B:箱庭に響くシンフォニア】へ。
※技能の補正はPOWロール自体に適用しない。また、補正は累計しない(新しい数値を直接適用する)。
※POW×1を失敗した以降は技能が使えなくなるが、RPなどで自分の意志を示したり、NPCと会話することは問題なく行える。この時点で情報はすべて集まっているはずなので、どのエンディングへでも向かうことができる。
この時点から:
探索者が少女を連れ出さない上、自分の意志でこの世界に残りたいと願った場合、【END B:箱庭に響くシンフォニア】へ。
探索者が行動を起こさない、鳥かごを無視する、または少女を連れ戻すことを放棄し、自分だけで帰りたいと願った場合、【END C:別れを告ぐソナタ】へ。
鳥かごを調べるのには近づかなければならない。鳥かごに向かって歩いていくのなら、相変わらず何も見えないのに、ちゃんとした足場の上で歩く感触がする。探索者は危なげなく目的地にたどり着けるだろう。
鳥かごの中は演劇の舞台のようになっている。照明がどこにも見当たらないのに、舞台の中央に向けて光が照射していて、そこに立っている一人の少女を照らし出す。金色の長い髪は腰まで伸びていて、黒目がちな瞳を少し伏せながら彼女は歌っている。白いドレスが舞台上に広がり、幼さが残る面影は儚げな雰囲気を少女に持たせる。まるで童話に出てくるお姫様のようだ。
彼女に近づくにつれ、歌声がだんだんと大きくなっていく。透き通る声が、聞いたことのない言葉を優美な旋律に乗せて、一曲、また一曲と歌を紡ぎだす。
――その中のいくつかは、なぜか探索者に得体のしれない恐怖を与える。意味の分からない言葉の羅列は、理解してはいけないものと直感する。SANチェック、1/1D3。
鳥かごは金属製のものだ。扉は閉ざされているようで、入り口はちょうど探索者の「足場」と同じぐらいの高さにある。鳥かごの中にある「舞台」の上には白い羽根が散りばめられている。
○鳥かごの扉に触れる、または開けようとする:【鳥かごの扉】の項目へ。
○少女に話をかける:探索者が外にいる限り、反応なし。
○鳥かごの中に〈目星〉:羽根のほかに、何か小さくて白い物も落ちているらしいが、羽根に埋もれているため、中に入って拾ってみなければ詳細はわからない。白い物は結構な数があって、舞台のあちこちに散りばめられているようだ。
○空または足場などを調査する:先述した結果と変わらない。
触れた瞬間、何かの映像が探索者の脳内に流れ込む感覚を覚える。
KPは【記憶:主人】の内容をPLに開示してください。
○記憶:主人
鳥かごの代わりに、目の前の景色は誰かの書斎に変わったようだ。
壁一面の本棚には本がぎっしりと詰められており、手前にデスクが置いてある。そこには一人の男性が座っている。30代前半に見える彼は、読んでいた本を閉じてデスクに置くと、かけていた眼鏡をはずして立ち上がる。そのまま隣にある、スタンドにかけてある鳥かごの前まで歩いていく。
「なあ、また歌ってくれるかい?『 』」
男が言葉を発するが、なぜか最後の部分が聞き取れない。そのまま目の前の景色がぼやけていく。最後に目にしたのは、金色の羽を震わせ、口を開こうとしている、かごの中にいる美しい小鳥だった――。
※男性はロニの主人(魔術師で狂信者)だった。主人の性別、容姿や年齢に関してはKPが自由に変更してもかまわない。
「記憶」を見た探索者は、少女の歌声が聞こえて、意識が現実に引き戻される。鳥かごを見れば、触れただけで動かしていなかった扉は、いつの間にかかすかに開かれている。探索者はどうやらそんな鳥かごに触れたまま、誰かの記憶を幻視していたようだ。知らない事象が勝手に頭の中に流れ込んできたことに対してSANチェック、0/1D3。
○POWロール:KPはここのSANチェック後、探索者に【POWロールについて】の項目に書かれたロールを振らせて、相応の処理を行ってください。
ここから探索者は扉をくぐって、鳥かごを自由に出入りできるようになる。中に入れば、少女と会話をすることや、舞台を調べることができる。
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外から〈目星〉して見つけられる「白い物」は、探索者が鳥かごの中にいればロールなしでも見つけられる。白い羽根に埋もれているので、拾いあげようとすれば必ず羽根を触れてしまう。その場合【白い羽根】の項目に記載された処理を行ってください。
舞台にある羽根に触れると、また別の記憶が探索者の脳内に流れ込む。
KPは【記憶:少年】の内容をPLに開示してください。
○記憶:少年
「ねえ、いつまでそこにいるつもりなの?」
青空に囲まれている鳥かごの中から、声の主を振り返る。外から話しかけてくるのは銀髪の少年で、とても心配そうにこちらを見ている。
「もうあいつはいなくなっただろ?だったら――」
「できないの」
少年の声を遮るように、少女の声がとても近い距離から聞こえる……近くて、まるで、自分自身が声を発しているような。
「どうして?!」
「呼ばれない限り、出ていくことはできないの。ここで歌うことしかできないの」
「なら俺が呼んであげる!お前の名前は?」
「……わからない」
記憶の主が俯いたのか、視界に映るのは鳥かごの底、舞台となっているその場所だ。
しばしの沈黙が流れた。やがて、少年の声が再び聞こえてくる。
「わかった!俺がなんとか思い出させるよ!そしたら一緒にここから出よう!」
弾かれたように、視線は再び鳥かごの外へ向けられる。そこには決心のついた眼差しを持つ少年の姿があった。
「待ってて!絶対に出してあげるからね、この『 』に任せて――」
少年は最後に何と言ったのか。またもや聞き取れないまま、探索者は現実に引き戻されてしまう。少女は相変わらず歌い続けている。
白昼夢でも見ていたのかと自身を疑うどころだった。探索者が触れていた羽根は光を放ち、輝く粒子に分解され、空気に溶けるように消えていく。舞台上にあるほかの羽根も同様に、すべて消えてなくなった。残っているのは「白い物」……真っ白な「真珠」のみだ。
○POWロール:ここでKPは探索者に【POWロールについて】の項目に書かれたロールを振らせて、相応の処理を行ってください。
羽根がすべて消えたあと、舞台上に散りばめらている白い真珠を拾うことができる。真珠は数が多く、見た目はほとんど同じため見分けがつかない。
○適当に拾う
一つ拾うたびに、探索者に〈幸運〉を振らせる。成功で、美しい旋律が頭の中で流れ始める。失敗で、奇妙な発音で歌われている冒涜的な旋律が頭の中で流れ始めて、SANチェック、1/1D2。
※少女が主人に教えてもらった歌が実体化した物で、一つの真珠=一曲というイメージ。それぞれ違う歌なので、拾うときの〈幸運〉ロールと失敗するときのSANチェックは慣れによる免除がなく、毎回行ってください。
※少女に真珠を見せると、探索者がそれを拾ったときに頭の中で流れる曲をそのまま歌ってくれる。
○真珠を調べる
触れなくても〈目星〉が振れる。成功で、白い真珠に混じって、違う宝石を二つだけ見つけられる。一つは透明なものだけれど、きれいに光を反射する宝石。もう一つは透明な宝石と似ているが、少し黄色を帯びている。
〈目星〉に失敗した場合、KPは探索者に【POWロールについて】の項目に書かれたロールを振らせて、相応の処理を行ってください。その後、〈目星〉の成功情報を開示してもかまわない(時間をかけて探索を行ったという処理)。
○透明の宝石と黄色の宝石
それぞれに〈地質学〉、または〈芸術(宝石鑑定)〉に類似する技能が振れる。成功で、透明の宝石はダイヤモンド、黄色の宝石はイエローダイヤモンドだとわかる。
透明の宝石(タイヤモンド)を拾うと、「リロン」と少年が誰かの名前を呼ぶ声が脳内に響く。
黄色い宝石(イエローダイヤモンド)を拾うと、「ロニ」と男性が誰かの名前を呼ぶ声が脳内に響く。
※探索者に二つの【記憶】が流れ込むときに、探索者が聞き取れなかった部分。なのでロニは主人に呼ばれていて、リロンは自分の名前を告げている。
※少女は二つのダイヤモンドを目視することも触れることもできない。
二つの名前を手に入れたら、KPは探索者に【POWロールについて】の項目に書かれたロールを振らせて、相応の処理を行ってください。また、この時点ですべての情報が出そろったため、PLが行動に迷うことがあれば、リアル時間15分に一度【POWロールについて】のロールと処理を行ってください(ボイセ・オフセの場合はもっと短い間隔にするのがいいかもしれない)。
○会話
鳥かごの中にいれば、少女と話すことができる。話かけると、彼女はいったん歌うことを止めて、質問に答えてくれる。
彼女は探索者がどうやってこの場所に来たのかも、帰る方法も知らない。また、何を言われても無表情のまま探索者を見つめて、感情の起伏を見せない。
探索者が見せられた記憶の中の出来事は彼女も知っているし、覚えている。ただし探索者が聞き取れなかった言葉は彼女の忘れた言葉なので、その言葉について、もしくは直接名前を尋ねてもわからないと返される。
少女は名前を思い出すまで、「1人でいるよりは歌を聞いてくれる観客がほしい」と思っている。探索者が話をかけたら、KPは彼女に「あなたは、私の観客になってくれる?」と質問させるといいだろう。探索者が承諾するのなら、「本当?じゃあずっとずっと、永遠に、ここにいてくれる?」と確認する。この質問に躊躇いもせずに肯定の返事を出した場合、【END B:箱庭に響くシンフォニア】へ。
探索者との会話が終われば、彼女は再び歌いだすだろう。
※〈心理学〉などを振る場合、(結果的にロストへと導くことになるとはいえ)彼女は純粋に観客に歌を聞いてほしいだけなので、探索者に害意は一切持ってないことが分かる。KPがロールの結果に合わせて描写するといいだろう。
他の会話例:
あなたは誰? → 「私は……私。名前はわからないの」
ここで何をしている? → 「主のために、歌を歌っていたの」
主は誰? → 「主は……いろんな歌を教えてくれた、主。私の知っている歌はすべて、主が教えてくれた歌」
どうして歌い続けているの? → 「私の、唯一の役目だから」
ここから出たいの? → 「……出られないよ。名前を覚えてないから」
○無理やり連れ出そうとする
少女を引っ張り連れ出そうとするのなら、特に抵抗せずに探索者についていく。だが鳥かごの入り口まで行くと、見えない壁に進路を阻まれて出られない。
それでも強行突破しようとすると、探索者も少女も見えない壁に押し返されて、床に倒れる。探索者はHP-1。
※探索者のみなら、鳥かごを自由に出入りできる。少女に触れていると壁に阻まれる。
○危害を加える
少女に物理的に攻撃しようとすれば、どこからともなく「彼女から離れろ!」と叫ぶ、聞き覚えのある少年の声が聞こえる。【END C:別れを告ぐソナタ】へ。
※記憶の中の少年、リロンの声。リロンは同じ空間内にはいないが、どこかでずっと探索者たちを見ている。
○「リロン」の名前を告げる
少女にその名前を告げると、「りろん……リロン……」と彼女は何回か繰り返しつぶやいてから、小さく微笑みを浮かべて、「……あの方の、名前」と話す。しかしそれ以降また無表情になる。
KPは【POWロールについて】の項目での処理を1段階前に戻してください(例えば、次回のロールがPOW×3ならば、それをPOW×4に戻す)。また、かかる補正も1段階前に戻すようにPLに伝えてください。
※記憶の少年の名前は「リロン」であり、少女がそれを思い出すことで外に出たい意思が強くなるため、歌の効果が薄まる。
○「ロニ」の名前を告げる
「ろに……そう、私の名前は……」少女ははっと目が覚めたように鳥かごの外を見る。
「今なら、あの方の元へ……」そう言って彼女は探索者に振り返って、「あなたも、一緒に戻る?」と問いかける。
戻ると答えたら、【END A:青空に響くカンタータ】へ。
戻らないと答えたら、少女は「ここに残れば、この場所と一緒に消えてなくなるけど、いいの?」と確認してくる。それでも戻らないと答えるのなら、【END D:取り残されたフィナーレ】へ。
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少女を連れて、鳥かごから出ていくエンド。
鳥かごから外へ出て、一歩踏み出せば……今まであった足場の感触がなく、探索者はそのまま、果てしない空へと「落ちていく」。
重力に抗える術もなく、探索者の意識はそのまま薄れていく。視界が完全に黒く染まる寸前、「ありがとう」と聞き覚えのある少年の声が聞こえた。
探索者ははっとして瞼を開ける。長い間気を失ったような気がするが、たった一瞬だけのようにも感じる。目の前には見知った風景……自分が最初に歩いていた町の景色だ。
白昼夢でも見ていたのか、と思った瞬間、頭上から鳥の鳴き声が聞こえる。見上げれば、金色の羽根を持つ小鳥と白い羽根を持つ小鳥が一緒に、果てしない空の向こうを目指すように、遠くへ飛び去って行った。その鳴き声が紡ぎ出している歌も、だんだんと遠のいていって、やがて聞こえなくなる。
きっと彼らの歌が聞こえるのもこれが最後だと、そんな予感を抱きながら探索者は日常へと戻っていくだろう。
○報酬
シナリオクリア SAN 1D6
リロンの名前を少女に告げた SAN 1
少女と一緒に、青空の空間に残るエンド。
残ってくれる探索者に向けて少女は告ぐ。
「ずっと、私の歌を聞いてくれるの」
「なら、これから私はあなたのために歌いましょう」
少女の歌声は絶え間なく、この閉ざされた世界(はこにわ)に響き渡る。それを聞き続けて、探索者はだんだんとすべてのこと忘れていき、ずっとこの声を聞いていたいと自然と願ってしまう。
ずっとここにいて自分はどうなるのか、「現実」での自分はどうなってしまうのか、もはやどうでもいい。探索者はこれからもずっと少女の観客であり、彼女とともに鳥かごに囚われてしまうのだ。
○キャラロスト
少女のことを無視する、または少女に危害を加えようとするエンド。
行動をした直後、探索者の視界が白く染まり、体が「下」へと落ちていく感覚を覚えつつ、途中で意識を失ってしまう。
悪夢から覚めるように、探索者がはっとして目を開けると、そこには見知った風景……自分が最初に歩いている町の景色がある。隣のアパートを見上げても、鳥の姿などなく、窓は閉まったままだ。
白昼夢でも見ていただろうか。そう考えながら探索者は再び歩き出して、日常へと戻っていくだろう。
○報酬なし
少女が出ていき、探索者が残るエンド。
残りたいという探索者を、少女は引き止めない。阻まれることなく鳥かごから出ていく少女の体は光に包まれて、やがて粒子に分解され、空中に溶けて消える。
同時に、「青空」に亀裂が走る。パリン、という音とともに、「世界」が砕け散り――探索者の意識もまた、そこで途絶えてしまう。
○キャラロスト
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こシナリオ中に出てくるものについての解説です。読まなくても回せます。
魔術師がいろいろ語ったり魔術を使ったりしたため、ペットはその影響を受けて人みたいに思考できたり、心が形成されたり、さらには魔術も少し使えるようになったり、歪められた存在となっていた。
リロンとロニ以外の鳥も似たような影響を受けているから「逃げ出したい」と自ら思うようになった。
執筆開始の前に木村亜希子さんが歌う「カナリア」を聞いていたので、金色の羽根を持つカナリアというイメージになっている。よく「歌う」のはオスだが、調べたところメスなのに歌がとてもきれいなものも居るという情報もいっぱい見つけたので、今回は「彼女」で、人間を模した姿も少女になっている。
名前はヘブライ語由来で、「私の喜び」「私の歌」の意味がある。
ちなみに「カナリア」はこのシナリオのテーマソングとして使っても似合うと思う。
同じく名前はヘブライ語由来で、「私のための喜び」「私のための歌」の意味がある。
真っ白な羽根を持つ以外特に設定していないので、どんな鳥かはKPが決めても構わない。
性別はオスなので人間を模した姿は少年になっている。
ロニの「心」を具現化した世界。この世界ができたのも、リロンが探索者を連れてこられるのも、上記二人の性質のせい。
主人の魔術師が彼女を逃がさないために、一部の記憶を封じ込む魔術をかけた。その中でも一番大事なのは「自分自身の名前」。主人に名前を呼ばれることもあるが、魔術のせいで覚えることができないため、外から呼ばれるだけでは魔術を解くことはできず、心の中から「思い出す」ことができなければならない仕掛けになっている。
最初から鍵はかかっていない。探索者が最初に触れたときもそのまま開いた。物理的な鍵開けはリロンにもできていたけど、魔術は解けなかったので扉が開いていてもロニは外に出られなかった。
リロンの羽根のイメージ。何度も来てくれるリロンがロニの心に残した「足跡」みたいなもの。ロニもリロンを気に入ってるのでこうして彼のことを心に留めている。
ロニの宝物。真珠は教えられた歌、二つのダイヤモンドは彼女の思い出せてない二つの名前。思い出せてないから、見ることも触ることもできない。
鳥かごはもういらない、解放されて身も心も自由になったことを表現している。ロニの心が壊れたわけではなく、ただ箱庭に収まり切れなくなったので、古い縛りを破ってこれからは好きなだけ広げられるというイメージ。
ほぼWiki調べだけど、
カンタータ(Cantata):「歌われる」の意味で、歌に伴奏を付けた音楽
シンフォニア(Sinfonia):カンタータの後奏曲に使われることがある(序曲や間奏曲もあるが)、シンフォニー(Symphony)のイタリア語でもある。シンフォニーは基本的に複数の楽器による大規模な楽曲である
ソナタ(Sonata):「演奏された曲」の意味で、正真正銘カンタータの正反対
フィナーレ(Finale):最終楽章、終曲
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※シナリオ制作の裏話などです、読まなくてもシナリオを回せます。
「#ふぁぼした人をイメージしてシナリオタイトルを作る」というツイッタータグで、フォロワーさんをイメージして「箱庭に響くカンタータ」というタイトルとトレーラーの文章だけ決めました。後にちゃんとしたシナリオの内容を思いついたので、このシナリオを書き上げました。今のトレーラーはほぼ初期案のままですね(最後の一行を削っただけ)。
「箱庭」はあまり正確ではないかな?と当時から思っていましたが、響きが好きなのと、一応限られた空間には閉じ込められたので、自分に妥協しました。
私とフォロワーさんがお互いクラシック音楽好きなので、最初に「歌姫」のアイデアが出てきましたが、鳥籠→鳥と連想していくうちに、蛇足の項目にも書いた「カナリア」の歌詞に話が寄っていきました。また当時フォロワーさんと短時間で遊べるセッションをしたくて、あえてシナリオを短くまとめました。テキセでサクッと回せるので個人的にも気に入ってます。
こういう経緯ですので実は背景のほうはだいぶ後になって付け足したものだったりします。ただ個人的なこだわりとして、CoCシナリオならやはり少しだけでもCoCの神話要素を入れたいから、今回は邪神の直接な干渉はなくとも、魔術師/信者という存在がそちらへ繋ぐ橋となってもらいました。本当にだいぶ薄い要素になりましたが…。